成人患者への持続脳波モニタリング 第10章 昏睡/意識障害
第10章 昏睡/意識障害
Lucy Sullivan, R. EEG T., CLTM
概要
昏睡は、深刻な意識喪失の状態である(国立神経疾患・脳卒中研究所[National Institute of Neurological Disorders and Stroke]2010)。基礎疾患の合併症として、または傷害、特に頭部損傷の結果として起こることがある。昏睡状態の患者は、自分自身や周囲を認識することができない。自発運動が起きることがあり、外部からの刺激に反応して開眼することもある。
意識障害とは、混乱、記憶喪失、意識の清明さの喪失、見当識の喪失、判断力または思考力の欠落、感情制御不全、知覚・精神運動・行動における障害など、脳機能の全般的な変化をいう。
説明できない意識レベルの低下がある場合は、非けいれん性てんかん発作または非けいれん性てんかん重積状態の可能性を考慮しなければならない。
連続脳波検査の有用性
連続脳波は以下の目的に有用である。
- 非けいれん性てんかん重積状態(NSCE)の除外
- 意図的な(薬物による)昏睡の深さのモニタリング
- 脳波および臨床上のすべての判定基準が満たされた場合の、脳電気的無活動の確認
- 患者の予後予測
昏睡患者では神経学的検査の指標の多くが失われているため、脳波検査は昏睡の深さを確認する手段として特別な役割を果たす(Libenson 2010)。脳波検査は、意識障害および昏睡の患者の脳機能障害を検出する、非常に感度の高い方法である(図10-1A、10-1B、10-1C)。脳波活動の変化の程度は、通常、脳機能障害の程度に対応する(Van CottおよびBrenner 2010)。脳波は急性期と慢性期を確実に区別することはできないが、一般的に急性期の方がより劇的な様相を呈する(Van CottおよびBrenner 2010)。
連続脳波モニタリングは非けいれん性てんかん重積状態を診断することができるので、昏睡の原因がこれであれば、治療できる可能性がある。長期の全般性発作や複雑部分発作は、脳波測定によらなければ検出できない非けいれん性てんかん発作に移行する可能性がある。けいれん後に発作後状態が持続する場合は、非けいれん性てんかん重積状態の可能性を考えなければならない。
重症患者に起こるてんかん発作の臨床像は、比較的健康な患者のそれとは大きく異なる(RampalおよびHirsch 2010)。昏睡患者は、攣縮、振戦、不自然な姿勢、心拍数や血圧の急変など、一見てんかん発作のような臨床症状を呈することがあるが、脳波上これらはてんかん発作の症状ではないため、不必要な治療を避けることができる(DrislaneおよびKaplan 2010)。
脳波所見を重篤なものからあげると、脳電気的無活動、20 μV未満の低振幅、バーストサプレッション、α昏睡、θ昏睡、スピンドル昏睡、広汎性徐波化となる(Kraussら、2011)。昏睡患者に脳波検査を行うときは、反応性を調べる必要がある(第15章を参照)。
昏睡患者で正常脳波がみられる場合は、心因性昏睡または閉じ込め状態の可能性がある。
非けいれん性てんかん発作と非けいれん性てんかん重積状態に関連する重要な要素が2つある。それは、認知や行動における変化およびそれと同時に脳波に出現するてんかん様パターンである(DrislaneおよびKaplan 2010)。連続脳波記録は治療を導き、治療の有効性を評価し、再発の兆候を検索する。ベンゾジアゼピンの投与直後に臨床状態と脳波が回復する患者は、基礎脳波のパターンにかかわらず、てんかん発作を起こしていたと考えられる(RampalおよびHirsch 2010)(図10-2Aおよび10-2B)。
図10-1A.患者はこの脳波記録の1 日前に強直間代発作を起こし、ベースラインの精神状態を回復していなかった。脳波には右側頭部および後頭部に11~14 Hz の律動性活動がみられる(ボックス)。
図10-1B.図10-1A の50 秒後。右側焦点性エレクトログラフ発作活動は緩徐な4~7 Hz の活動に移行し、振幅を増して右半球全体に広がる(ボックスを参照)。
図10-1C.図10-1B の21 秒後。エレクトログラフ発作放電はδ 波の範囲に徐波化し、停止しはじめた(縦の線)。離散的な焦点性のエレクトログラフ発作が数時間繰り返した。患者は混乱状態で、時折、口辺をぴくつかせることがあった。
図10-2A.全般性周期性てんかん様放電(GPEDs)を特徴とする非けいれん性てんかん重積状態が1~2 Hz の頻度で出現している。提供:Lawrence Hirsch, M.D.
図10-2B.図10-2A と同じ患者。ロラゼパム計6 mg を投与し、脳波は回復した。全般性周期性てんかん様放電は全般性徐波化に取って代わられた。提供:Lawrence Hirsch, M.D.
全般性徐波化は、せん妄、薬剤による昏睡、脳炎、代謝障害等に起因する広汎性脳機能障害を示唆する。焦点性徐波化は、脳梗塞、脳挫傷または脳腫瘍に起因する焦点性脳機能障害の徴候である。
全般性周期性放電(GPEDs)は、放電間の背景活動がしばしば平坦となる無酸素症後の昏睡をはじめとするさまざまな状態で記録される(図10-3)。GPEDs は、けいれん性てんかん重積状態の後にもみられる。
図10-3.脈拍停止後8 分間の心肺蘇生により脈拍を回復した昏睡患者の脳波。全般性周期性てんかん様放電(GPEDs)がみられる。
両側独立性周期性一側性てんかん様放電(BIPLEDs)がみられる場合は、周期性一側性てんかん様放電(PLEDs)がみられる場合よりも、精神状態が不良(通常は昏睡)と考えられ、急性疾患中のてんかん発作と強く関連する(Hirsch およびBrenner 2010)(図10-4)。
図10-4.昏睡患者における両側独立性周期性一側性てんかん様放電(BIPLEDs)。右側の周期性放電(灰色の菱形)とは独立して左側の周期性放電(黒い三角)が出現している。
[T7(10-10 法)はT3(10-20 法)、P7(10-10 法)はT5(10-20 法)、T8(10-10 法)はT4(10-20 法)、P8(10-10 法)はT6(10-20 法)にそれぞれ対応する]。
バーストサプレッションは一般に無酸素性傷害と関連づけられ、神経回復は不良となる。バースト部の振幅低下およびサプレッション部の平坦化と長期化は、重症度と相関する(Libenson、2010)(図10-5)。バーストサプレッションは、脳の保護に薬剤(プロポフォール等)を使用するとみられることがあり、使用を中止すると消失する。
図10-5.長期の心停止後、バーストサプレッションがみられる。
20 μV 以下の低振幅または低電位の脳波記録は、重度の異常と考えられる。このパターンがみられた場合は、大脳が有意な電位を発生することができないほど損傷の程度が重いことを示唆する(Libenson 2010)(図10-6、10-7、10-8)。無酸素症の後、一過性に電位が低下することがあるため、長期の脳波検査を行い、電位の低下を確認する必要である。
図10-6.無酸素性脳損傷後に低電位活動がみられる。
[T7(10-10 法)はT3(10-20 法)、P7(10-10 法)はT5(10-20 法)、T8(10-10 法)はT4(10-20 法)、P8(10-10 法)はT6(10-20 法)にそれぞれ対応する]。
図10-7.低電位の背景から左側性の発作が出現している。
図10-8.低電位の背景から高振幅の多棘波が出現している。この記録の最後の3 分の1 に非同期性の身体痙動に伴う筋アーチファクトが出現していることに注目。
参考文献
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