成人患者への持続脳波モニタリング 第2章 用語、略語および頭字語
第2章 用語、略語および頭字語
Lucy Sullivan, R. EEG T., CLTM
脳波に関するレポートや会話には、聞きなれない独特の用語、略語および頭字語が数多く使われる。以下に定義する語は本文中ではすべて斜体で示されている。
α ― 脳波の周波数帯域で8~13 Hzのもの。
α昏睡 ― 昏睡患者みられる、α波の活動を特徴とする単調で広汎性の脳波パターン。患者は刺激に対する反応を示さない。
α/θ昏睡 ― 昏睡患者でみられるα周波数およびθ周波数の活動を特徴とする単調で広汎性の脳波パターンで、患者は刺激に対する反応を示さない。
α律動 ― 覚醒時、後頭後方に出現する8~13 Hzの律動。通常、後頭部領域で高い電位を示す。
振幅 ― 脳波の波形または複合波形の電位で、単位はμVで表す。低振幅:<20 μV、中等度振幅:20~50 μV、高振幅:>50 μV
アーチファクト ― 脳波記録に出現する、脳に由来しないすべての波形。
非対称性 ― 脳半球のある部位における脳波活動が、対側半球の同部位よりも減少または増加していること。
非同期性 ― 左右の脳半球の波形が時間的に独立している、または同期しないこと。
減衰 ― 電位低下による脳波活動の振幅低下。痛み刺激を与えた昏睡患者の脳波でみられることがある。
背景活動 ― 脳の基礎的な活動。「背景脳波活動」ともいう。
背景律動 ― 患者が清明のときに後頭部電極でみられる活動の周波数。背景パターンまたは後頭部優位律動ともいう。
背景パターン ― 患者が清明のときに後頭部電極でみられる活動の周波数。背景律動または後頭部優位律動ともいう。
β ― 脳波の周波数帯域で13~30 Hzのもの。
両側性 ― 脳波波形が左右の脳半球に出現すること。
BIPLEDs(両側独立性周期性一側性てんかん様放電;Bilateral Independent Periodic Lateralized Epileptiform Discharges)― 左右の脳半球で一定の間隔をおいて非同期性に出現する脳波波形。
双極モンタージュ ― 各チャンネルにおける2個の頭皮電極間の電位差を表す
両側同期性 ― 脳波波形が両側性に同時に出現すること。
ブリーチリズム ― 頭蓋欠損部にみられる高振幅脳波波形
バースト(群発)― 周波数、波形および/または振幅の違いにより背景活動から区別される一群の脳波波形が突然に出現・消失すること。
バーストサプレッション ― θ波および/またはδ波の群発(バースト)を特徴とする脳波パターンで、しばしば高周波成分が混在し、相対的な休止相または平坦相によって中断される。サプレッションバーストともいう。
連続脳波(continuous EEG;cEEG)― 精神障害または急性脳虚血を発症する危険性が高い重症患者を対象に、長期間(数時間、数日または数週間)にわたって連続的にデジタル記録した脳波。
中心性 ― 脳の中心溝周辺の部位に由来すること。中心部電極:C3、C4、Cz
複合波 ― 背景活動から際立つはっきりとした波形またはパターンを持つ2個以上の脳波波形が連なったもの。
複雑部分発作 ― 意識または反応性の定款関連する焦点性発作。
緊急の検査結果(critical test results)― 報告が遅れると患者に重篤な有害転帰を生じる可能性のある検査値または解釈。「緊急異常値」ともいう。
緊急異常値(critical value)― 報告が遅れると患者に重篤な有害転帰を生じる可能性のある検査値または解釈。「緊急検査結果」ともいう。
δ ― 脳波の周波数帯域4 Hz未満のもの。
広汎性 ― 脳波活動が頭部の広い領域にわたって出現すること。
広汎性徐波化 ― 8 Hz未満の脳波が頭部の広い領域にわたって出現すること。
優位周波数 ― 脳波記録の最も広い部分を占める脳波活動の周波数。
脳電気的無活動(Electrocerebral Inactivity;ECI)― 頭皮電極間距離10 cm以上、電極インピーダンス10,000 Ω未満の条件下で、2 μVを超える脳波活動が認められない状態。
脳電気的沈黙(Electrocerebral Silence;ECS)― 頭皮電極間距離10 cm以上、電極インピーダンス10,000 Ω未満の条件下で、2 μVを超える脳波活動が認められない状態。
電極インピーダンス ― 脳波電極がきちんと装着されているかどうかを示す指標。インピーダンスの上昇により電極の脱落を知ることができる。電極のインピーダンスは通常5,000 Ω未満である。
エレクトログラフ発作 ― 発作に特徴的な波形が脳波記録上にみられるが、臨床的に明らかな変化を認めない発作。非けいれん性てんかん発作とも呼ばれる。
てんかん放電―背景活動とは明確に区別される脳波または複合波。てんかん障害を患う患者の一定数および実験的にてんかん状態にした動物で記録される脳波に似る。「てんかん様放電」の呼称が望ましい。
てんかん様放電 ― 背景活動とは明確に区別される脳波または複合波。てんかん障害を患う患者の一定数および実験的にてんかん状態にした動物で記録される脳波に似る。
てんかん棘波 ― 背景活動とは明確に区別される脳波または複合波。てんかん障害を患う患者の一定数および実験的にてんかん状態にした動物で記録される脳波に似る。「てんかん様棘波」の呼称が望ましい。
てんかん様活動 ― 背景活動とは明確に区別される脳波または複合波。てんかん障害を患う患者の一定数および実験的にてんかん状態にした動物で記録される脳波に似る。
速波活動/速波周波数 ― 13 Hzよりも速い周波数の脳波活動。すなわち、β波(13~30 Hz)とγ波(30 Hz以上)。
FIRDA(前頭部間欠律動性δ波;Frontal Intermittent Rhythmic Delta Activity)― 前頭部に律動的な一連のδ波活動が間欠的に出現する。成人患者で非特異的にみられる。
焦点性 ― 脳の明確に区分された領域にみられる脳波波形。通常、ひとまとまりの電極群にみられる。 例:焦点性の右側頭部棘波、焦点性徐波など。
周波数 ― 信号が変化を繰り返す頻度。単位はヘルツ(Hz)またはサイクル毎秒(cps)。
前頭部 ― 前頭部電極(Fp1、Fp2、F3、F4、F7、F8)に由来する脳波活動。
前頭部優位 ― 前頭部電極に最も高い振幅を示す脳波活動。例:前頭部優位棘波および波活動、前頭部優位δ波など。
γ ― 脳波の周波数帯域30 Hzを超えるもの。
全般性 ― すべての記録電極で同時に出現する脳波波形
全般性徐波化 ― すべての記録電極で同時に起こる、θ波および/またはδ波周波数領域の脳波波形
全般性棘徐波 ― すべての記録電極で同時に生じる棘徐波脳波波形
舌運動性 ― 舌の動きに起因すること。舌運動アーチファクトは、患者が話をしたり物を飲み込んだりすると脳波記録に出現する。
GPEDs(全般性周期性てんかん様放電;Generalized Periodic Epileptiform Discharges)― 全般性および同期性放電を特徴とする脳波パターンで、通常、介在する背景活動が比較的乏しい。この パターンは通常、無酸素症でみられる重度の広汎性脳傷害を反映する。
ヘルツ ― 周波数の単位でサイクル毎秒と等しい。Hzと略記される。例:8 Hzのα活動。
高振幅 ― 脳波上にみられる、予想よりも高い振幅を示す非特異的用語。通常、50 μVを超える。
高電位 ― 脳波上にみられる、予想よりも高い電位を示す非特異的用語。通常、50 μVを超える。
相同性 ― 相対的に同じ位置または構造を持つこと。例:C3とC4は相同電極である。
Hz(ヘルツ)― 周波数の単位。サイクル毎秒に等しい。 例:8 Hzのα活動。
発作時 ― てんかん発作中に起こること。
発作間 ― てんかんの発作と発作の間に起こること。
インピーダンス ― 脳波測定において、脳波電極がきちんと装着されているかどうかを示す指標。 インピーダンスの上昇により電極の脱落を知ることができる。電極のインピーダンスは通常5,000 Ω未満である。
発作間てんかん様放電 ― 発作と発作の間に起こる明確な脳波または複合波。背景活動から区別され、てんかん障害を患う患者の一定数および実験的にてんかん状態にした動物で記録される脳波に似る。
不規則波 ― 抑揚または律動の予測ができない脳波波形。
K複合 ― 睡眠の正常成分で、鋭い高振幅波形とそれに続く徐波成分で構成される。自然発生的または刺激に反応して出現する。
一側性 ― 一方の脳半球のみで起こること。
低振幅 ― 脳波上の振幅が予想よりも低いことを示唆する非特異的用語。通常、20 μV未満。
低電位 ― 脳波上の電位が予想よりも低いことを示唆する非特異的用語。通常、20 μV未満。
軽度徐波化 ― 非特異的用語で、脳波上の周波数が予想より遅いことを示す。
混合周波数活動 ― δ波、θ波、α波、β波の周波数成分で構成され、波の中に波が混在する脳波波形。
モンタージュ ― 利用可能なチャンネルを使用した多数の電極対の組み合わせ。これにより頭皮全体の脳波活動を同時に記録することができる。
μ波(ミュー波)― 中心部領域に一側性または両側性にみられる7~11 Hzのアーチ型の波形。C3および/またはC4電極で最大となる。対側の手の動きに伴いミュー波は減衰する。
多焦点性 ― 脳波記録電極に2個以上の独立した焦点がみられること。
非けいれん性てんかん発作(Nonconvulsive seizure;NCS)― てんかん発作に典型的な波形が脳波記録上にみられるが、臨床的には関連する変化が確認できない発作。エレクトログラフ発作、無症候性発作ともいう。
非けいれん性てんかん重積状態(Nonconvulsive status epilepticus;NCSE) ― 連続的で、漸進的に増大するてんかん様活動、たとえば、棘波、鋭波、律動性周波数など、を特徴とする。この間、患者は明確な臨床症状を示さない。NCSEは多くの異なる要素によって引き起こされるため、診断が困難なことがある。
神経テレメトリー(Neurotelemetry;NT) ― ビデオモニタリングによりリアルタイムで行われる連続脳波記録で、脳波検査技師が連続的に観察を行う。
発作性 ― 突然出現し、急速に最大振幅に達し、突然消失する、背景活動からの区別が容易な脳波波形。
発作性徐波化 ― 突然出現し、急速に最大振幅に達し、突然消失する、背景活動からの区別が容易なθ波およびδ波周波数波形。
発作性棘徐波 ― 突然出現し、急速に最大振幅に達し、突然消失する、背景活動からの区別が容易な棘徐波複合。
PEDs(周期性てんかん様放電;Periodic Epileptiform Discharges)― 一定の間隔で出現する鋭波または棘波を特徴とする脳波パターン。
周期性 ― 一定の間隔で出現する脳波波形または複合波。たとえば、1~4秒に1回など。
周期性パターン ― 一定の間隔で出現する脳波パターン。たとえば、全般性周期性てんかん様放電(GPEDs)、周期性一側性てんかん様放電(PLEDs)など。
光突発反応 ― 光刺激中にみられる高振幅、全般性、不規則な棘徐波または多棘徐波の群発。
PLEDs(周期性一側性てんかん様放電;Periodic Lateralized Epileptiform Discharges)― 一定の発現率で起こる鋭波または棘波を特徴とする脳波パターン。急性の神経学的状態、特に脳梗塞で最も頻繁にみられる。
多形性 ― 多数の形を持つこと。複数の脳波周波数が組み合わさって複合波形をつくる。
多棘波 ― 2個以上の棘波が連なったもの。
発作後 ― てんかん発作の後に起こること。例:右側頭部の焦点性発作後δ波。
POSTS(睡眠時後頭部一過性陽性鋭波;Positive Occipital Sharp Transients of Sleep)― 後頭部優位にみられる睡眠の正常成分。
後頭優位律動 ― 患者が清明のときに後頭電極にみられる活動の周波数。背景律動ともいう。
RAWOD(デルタ波をみない局所的減衰;Regional Attenuation WithOut Delta)― 虚血性脳半球における、δ活動を含むすべての周波数の顕著な減衰を特徴とする明確な脳波パターン。
反応性 ― 刺激後の脳波活動の変化。
基準モンタージュ ― 基準電極を身体の別の部位(頭皮上の場合もある)に置き、頭皮電極との電位差を導出するモンタージュ。この部位は中性または脳波の影響を受けないと仮定される。
律動性 ― 一定の周波数の波からなる脳波活動。例:律動性の11 Hzのα活動
二次性両側性同期 ― 一側性皮質焦点から出現する全般性放電
二次性全般性発作 ― 脳波上では焦点性の領域に出現する臨床的に両側性の強直間代発作が、すべての脳波記録電極に急速に広がる。
てんかん発作放電 ― 背景活動から明確に区別される脳波または複合波。てんかん障害を患う患者の一定数および実験的にてんかん状態にした動物で記録される脳波に似る。てんかん様放電の呼称が望ましい。
一過性鋭波 ― 70~200 msecの長さを持つ脳波波形。鋭波の別名。
鋭波 ― 70~200 msecの長さを持つ脳波波形。
鋭波複合 ― 鋭波の後にδ波が続く複合波
単純部分発作 ― 認知の変化を伴わない限局性の発作(脳の小領域に孤立)
SIRPIDs(刺激誘発性の律動性、周期性または発作性放電;Stimulus Induced Rhythmic, Periodic, or Ictal Discharges)― 重症の脳症患者において刺激により誘発される脳波パターン。
睡眠紡錘波 ― 12~14 Hzの脳波波形で、睡眠中に中心部領域で振幅が最大化する。
徐波活動 ― 8 Hz未満の脳波、すなわちθ波(4~8 Hz)およびδ波(4 Hz未満)
徐波 ― 8 Hz未満の脳波、すなわちθ波(4~8 Hz)およびδ波(4 Hz未満)。
棘波 ― 長さが20~70 msecの脳波波形
棘徐波複合 ― 棘波の後に徐波が続く脳波波形。焦点性、一側性または全般性に出現する。棘徐波パターンとも呼ばれる。
棘徐波放電 ― 棘波の後に徐波が続く脳波波形。焦点性、一側性または全般性に出現する。
スピンドル昏睡 ― 昏睡状態で覚醒しない患者にみられる睡眠パターンで、θ波およびδ波が混在する睡眠紡錘波、頭頂鋭波および/またはK複合を含む。
無症候性 ― 臨床症状(たとえば、けいれん性の急な動きなど)を伴わない非けいれん性てんかん発作を指して用いられる語。
抑制(サプレッション) ― 脳波波形の減衰。焦点性、一側性、全般性がある。
サプレッションバースト―θ波および/または δ波の群発(バースト)を特徴とする脳波パターンで、しばしば高周波成分が混在し、相対的な休止相または平坦相によって中断される。バーストサプレッションともいう。
対称性 ― 相同な(対応する)頭部部の領域にみられる周波数および振幅が等しい脳波波形。
同期性 ― 相同な頭部領域に脳波波形が同時に出現すること
θ ― 脳波の周波数帯域で4~8 Hzのもの。
θ昏睡 ― 昏睡患者にみられるθ周波数の活動を特徴とする単調で広汎性の脳波パターン。患者は刺激に対する反応を示さない。
TIRDA(側頭部間欠性律動性δ活動;Temporal Intermittent Rhythmic Delta Activity)―側頭葉てんかんと関連づけられる左右いずれかの側頭葉に律動的な一連のδ波活動が間欠的に出現する。
一過性波 ― 背景活動とは明らかに異なる孤立性の脳波またはパターン。
三相波 ― 3相からなる脳波波形。
一側性 ― 一方の側で起こること。
頭蓋頂鋭波、V波 ― 睡眠の正常成分。Cz優位で出現する頭頂部の一過性鋭波。単発または反復的にみられる。
参照文献
Grass Instrument Company. Glossary of Terms Used in Electroencephalography. 1981.
Libenson MH. Practical Approach to Electroencephalography. Philadelphia, PA: Saunders Elsevier; 2011.
Schomer DL, Lopes da Silva FH (Editors). Niedermeyer’s Electroencephalography: Basic Principles, Clinical Applications, and Related Fields: Sixth Edition. Philadelphia, PA: Wolters Kluwer Health; 2011.
Yamada R, Meng E. Practical Guide for Clinical Neurophysiologic Testing. Philadelphia, PA: Wolters Kluwer Health; 2010.
(特集 成人患者への持続脳波モニタリング第2章 終わり)