成人患者への持続脳波モニタリング 第17章 臨床モニタリングにおける脳波データのトレンド表示に関する概説

第17章 臨床モニタリングにおける脳波データのトレンド表示に関する概説

Marco Moreno, R. EEG T., MS; Nicholas R. Anderson, PhD

 

概要

 脳波のデジタル化は、生の脳波をさまざまに加工し分析する新しい機会をもたらした。脳波のデジタル化により、波形の分解・再構築と数学的アルゴリズムの実行が可能となり、脳の神経細胞から発せられる膨大な電気信号の集合体を、さまざまに工夫を凝らした様式で表現することが可能となった。しかし、脳波データを種々の形に加工することができるようになったとはいえ、忘れてならないのは、生の脳波が判読の基本だということである。 1920 年代から読まれてきたその細かく揺れる波の軌跡は、今なお、患者の臨床状態と関連する基礎的な神経活動を示す最も信頼できる指標である。たしかに、脳波のデジタル分析はわれわれに新しい視点と追加情報を提供し、脳波観察の迅速化と簡略化を実現するが、だからといって、生の脳波に触れてこれを深く理解することなしには、デジタル分析の妥当性を検証し、その結果を解釈することはできない。 

 

脳波データのデジタルトレンドグラフは、脳波の全体像と全般性・焦点性変化を確認できるように脳波データを表示・分析するツールである。 

 

脳波トレンドの特性

  1. 表示時間枠を拡大し、長い時間をかけて顕著となる脳波の変化(周期性、反復性または単回の変化)を視認しやすくする。 
  2. 振幅、周波数、非対称性(焦点性または全般性の減衰、律動性活動または徐波化)について、特定の大脳皮質野における脳波を強調することができる。 
  3. 脳波の専門家ではない者でも直ちに行動できる情報が得られるため、彼らは脳波専門家と協議のうえ、あるいはその指示に従って、治療法を決定することができる。
  4. 臨床的に有用な「データ整理」またはスクリーニングの方法である。
  5. 発作間欠期棘波等の短い一過性のイベントは表示されにくい。
  6. 正弦波とウィケット波の違いなど、波形の形態を考慮しにくい。
  7. 脳波元波形の解釈はしない。 

 

トレンドは脳波を詳細に分析するのではなく、脳波の「全体像」を把握することを目的とする。したがって、30 分程度の脳波検査で、熟練した脳波検査技師が常にそばにいて、臨床的イベントと脳波上のイベントの関係を評価できるような場合には、脳波記録をトレンドに変換する臨床的意義はあまりないかもしれない。しかし、長期にわたるモニタリングにおいては非常に有効で、知識が豊富で注意深い熟練した脳波検査技師がいないときでも、患者の脳波で起きる変化に臨床者の注意を喚起することができる。 

 

本章では以下について考察する。 

  1. いくつかの基本トレンドの概要
  2. 各トレンドの意図されたまたは一般的な利用法
  3. 最適な表示パラメータ
  4. 互いに機能を補完する複数のトレンドの組み合わせ

トレンドには多くの種類があり、そのいくつかは臨床や研究のさまざまな分野で使用されてきた長い歴史がある(Anderson およびWisneski 2008)。いくつかのトレンドは、脳波の振幅、周波数、周期性、律動性等の変化を同定し強調することに長けている。ひとつのトレンドがすべての機能をはたすことはないので、トレンドに習熟した者は症例の状態に応じて複数のトレンドを組み合わせて使用するのが一般的である。 

 

本書は、臨床で一般的に利用されているさまざまなトレンドの一部を紹介し、それが生の脳波からどのように導き出されるのかを説明することに努めた。数式やアルゴリズムに関する記述を最小限にとどめ、細胞神経生理学に関する議論を避け、現実的な考察が進むよう最善を尽くした。とはいえ、数式、生理学、数学の本質的な論考を望む読者のため、本文中には参考文献を豊富に引用した。これらの文献を参照することにより、読者はより深い知識と有意義な理解を得ることができるだろう。 

 

本章では、トレンドの表示方法や抽出する脳波の周波数帯に関して推奨設定が提示されている項目があるが、これらはもっぱら当該分野の指導者が作成した白書に記述されている特定の設定条件や使用経験に基づいている。 

 

連続脳波の有用性

脳波は、1)麻酔、2)脳血流(cerebral blood flow;CBF)、虚血、低酸素症、無酸素症、3)発作の高感度な指標である。これらは ICU での治療が適応となる主訴となることもあれば、外傷性脳損傷、くも膜下出血、脳卒中、てんかん重積状態またはその他の傷害の二次的結果として起こることもある。 

 

連続脳波は脳機能をリアルタイムに示す指標であるため、予測不可能または他の方法では検出不可能な、まれに起こる一過性のイベントを検出することができる。 

 

MRI や CT スキャンは脳構造の優れた画像を提供するが、画像で異常が確認できるのは機能障害が発生してから数時間後ということもある。理由のひとつは、画像法には刻々と変化する脳機能を連続的に示す指標がないからである。よく言われるように、「時は脳なり(time is brain)」である。急性の脳損傷が起こった場合は、永久的な後遺症を防ぐためにも、迅速な介入が必要となる(Jordan 1999、Vespa ら 1999、 Trevathan 2006)。 

 

トレンドの説明、推奨表示設定、臨床的応用

時間領域トレンド
時間領域トレンドまたは振幅トレンドは、指定周波数帯域の脳波の電位またはパワー値から導き出されるトレンドで、トータルパワー、エンベロープ、aEEG(Amplitude Integrated EEG;振幅統合脳波)、バーストサプレッション等のトレンドがある。周波数特異的なトレンドと比較すると、脳波を特定の周波数成分に分類しないため、比較的単純である。

 

トータルパワー・トレンドは、パワー値(μV2)を Y 軸に、時間を X 軸にとってグラフ化した時間領域のトレンドである。

 

説明:トータルパワーとは 1950 年代に Falconer と Bickford によって提案された指標である。彼らはこれを「パワー値=電位の 2 乗×抵抗」と定義し、「脳波電位の 2 乗の移動平均」と説明した。最近では、デジタル・トータルパワーが提案され、「1 エポックにおけるすべての脳波サンプルの 2 乗値の和」と定義されている(Rampil、1998)。 

totalpower

上図は、トータルパワーを 0~1000 μV2 のスケールで Y 軸に表示したトータルパワー・トレンドである。表示時間は 4 時間で、患者は睡眠覚醒周期を呈している。トータルパワーは概略の指標でしかないため、他のトレンドと同様に、詳細な脳波情報を知ることはできない。灰色のカーソルが置かれた位置(01:30~02:00 の間)に対応する脳波元波形を見ると、パワー値の大部分は睡眠波形に由来することがわかる。しかし、脳波元波形がなければその程度の判断も難しい。 

 

臨床的有用性:トータルパワーは、麻酔の深さをモニターするための指標として、文献で頻繁に記述されている。通常、他の指標と組み合わせて論じられることが多い(Rampil 1998、John ら 2001、Otto 2008)。また、心臓バイパス手術中のトータルパワーの低下は神経傷害の予測因子になりうることが指摘されている(Arom ら 1989)。 

 

totalp02

上図(トータルパワー・トレンド、表示時間:1 h)ではマーカーが約 15:08 に置かれ、対応する脳波元波形が EEG 画面に表示されている。この後、トータルパワーの低下が認められ、患者は著明な等電相を伴う明らかなバーストサプレッションに移行する(下図)。 

 

tp003

 トータルパワー・トレンドはその単純さゆえに麻酔モニタリング、術中モニタリングおよび ICU モニタリングに有用とされているが、最近の臨床モニタリング環境では、より具体的な指標であるパワー比(δ 波パワー、α 波パワー、α 波の変動性等)を用いることが多くなってきている(パワー比については後述)。 

 

エンベロープ・トレンドは、振幅(μV)を Y 軸に、時間を X 軸にとってグラフ化した時間領域のトレンドである。このトレンドは各エポック(標本化の単位時間)に含まれる振幅の中央値に依存するため、他のトレンドに比べ、アーチファクトの影響を受けにくい。 

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上図は、振幅を 0~100 μV のスケールで Y 軸にとり、記録時間を 4 h で表示したエンベロープ・トレンドである。症例は睡眠覚醒周期を呈する正常患者である。表示時間では全体的な振幅に大きな変化がなかったため、記録に顕著な振れはみられない。 

推奨表示設定

  • 表示時間:2~4 h
  • エポック長/時間分解能:10~20 sec
  • モンタージュ:双極

env002

このエンベロープ・トレンドは、てんかん重積状態の 2 歳の患児で繰り返される発作活動を示している。注目すべきは、記録開始後 2 時間以内に出現する 7 つの際立った振れである。約 55 分のピークにカーソルが置かれ、対応する脳波元波形が下の EEG 画面に表示されている。これらのピークはそれぞれ発作イベントに対応しているが、臨床的には誤解されており、患者の両親の解釈では、冷却ブランケットによる「シバリング(震え)」となっていた。

 

臨床的有用性:エンベロープ・トレンドは発作活動と関連する脳波の律動性変化の確認に便利であるとされ(Akman ら 2011)、慣れていないユーザにも使いやすい(Abend ら 2008)が、やはり慣れているユーザの方が感度良く使いこなせる。振幅の絶対値ではなく中央値に依存するため、他の時間領域トレンドに比べ、一過性のアーチファクトに対する影響を受けにくい。このため、律動性活動に対してより正確に反応する。エンベロープ・トレンドの感度を改善するための推奨事項としては、基礎脳波の初期評価、周波数および電極のカスタマイズ、補助的なトレンドの追加等が考えられる。 

 

振幅統合脳波(Amplitude Integrated EEG;aEEG)または脳機能モニタリング(Cerebral Function Monitoring;CFM)は、脳波の振幅(一般的には 0~100 μV)を Y 軸、時間(紙送り速度:6 cm/hr)を X 軸にとってグラフ化した振幅に基づくトレンドである。任意のエポックに含まれる波形を、振幅の最高値を上端、最低値を下端とする 1 本の青いバーに圧縮する。これを時間軸に沿って並べ、下図(非常に単純化したもの)のようなトレンドグラフに変換する。 

eeg

aEEG では、脳波元波形波形(上図)から必要な成分を抽出(filtering)し、加工(rectification)し、頂点をなだらかに結び(smoothing)、エポックごとの振幅の最小値と最大値をトレンドグラフに表示する。 

aeeg

上図は、左右の電極を組み合わせた横導出法による aEEG トレンドグラフである。ここでは紙送り速度を 6 cm/hr、表示時間を 5 h で表示している。振幅(Y 軸)の表示方法には独特の工夫が凝らされており、0 から 10 μV までは整数で、10 から 100 μV までは対数で表示されている。(0~10 μV と 10~100 μV の表示エリアの大きさがほとんど等しいことに注目)。メーカーによって表示方法は若干異なるかもしれないが、この特徴的な表示方法には高振幅活動に対し低振幅活動を効果的に強調するという目的がある。 

 

推奨表示設定

  • 表示時間:「紙送り速度」6 cm/hr
  • エポック長/時間分解能:1 sec
  • モンタージュ:双極、通常は C3‐ C4 または P3‐ P4
  • 周波数フィルタ:2~15 Hz

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上図は、満期新生児の正常な aEEG の例である。注目すべき点は、1)脳波活動の大部分が 10~50 μV の範囲にあること、そして 2)脳波活動が変化に富んでいることである。後者は典型的な睡眠覚醒周期を示している。 

 

臨床的有用性:aEEG はもともと Douglas Maynard が脳機能モニター(Cerebral Function Monitor;CFM)に使用する単一チャンネルのトレンドとして 1969 年に開発したものである。Pamela Prior はこれを成人患者の蘇生後心臓バイパス手術中の脳活動モニタリングに使用した(Maynard ら、1969)。今でもこの機能を成人のモニタリングに用いている施設もあるが、現在の最も一般的な用途は高リスク乳児、すなわち、新生児集中治療室(neonatal intensive care unit;NICU)における低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischemic encephalopathy;HIE)後の新生児のモニタリングである(Azzopardi ら 1999、de Vries ら 2005、Spitzmiller ら、2007、Abend ら 2011)。 

 

危険な状態にある新生児を扱う NICU において、aEEG が標準的脳波検査の補助として有用であることは、いくつかの研究によって確認されている。ただし、1)脳波元波形の同時表示(Toet ら 2002、Shellhaas ら 2007a、Shah ら 2008)、2)電極数の増加(Toet ら 2002)、そして 3)経験豊富な判読医師の利用(Rennie ら 2004、Hagmann ら 2006、Shellhaas ら 2007b、Abend ら 2008、Stewart ら 2010)により、判読の正確さは大幅に改善される。 

 

脳波トレンドの完全な判読方法の解説は本書の範囲ではないが、判読する際に注意すべき重要なポイントをいくつか以下に挙げる。 

  • 脳波に適切な連続性または非連続性があるか(Olischar ら 2004)?
  • 脳波の振幅は適切か(たとえば、正期産児でおおむね 5~50 μV の範囲にあるか)?
  • 脳波に状態変化や睡眠覚醒周期を示唆する十分な変動性があるか(Korotchikova ら 2009)?
  • 脳波記録の全体的な外観は年相応か(Olischar ら 2004、Sisman ら 2005)?
  • 脳波にバーストサプレッションまたは発作活動の徴候はあるか(Zeinstra ら 2001、Menache ら 2002)?
  • 異常脳波はどのくらいの速さで正常化するか(Toet 1999、Azzopardi ら 1999)?

aEEG から導き出されるこれらの情報から、新生児の年齢に応じた脳の発達と予後について多くのことを知ることができる。 

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上図の不連続な aEEG パターンは、前に見た満期新生児のパターンと比較すると変動性を欠いている。注目すべきは、振幅の下縁がほとんど常に 5 μV 近くにあり、脳波が完全ではないがほとんど平坦な点である。不連続な脳波は早期新生児に典型的な所見であるが、薬剤の影響や低酸素または虚血の影響を受けていないかぎり、満期までには脳波が連続することが期待される(Toet ら 1999、Olischar ら 2004、 Menache ら 2002)。 

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新生児 aEEG のバーストサプレッションは在胎(GA)25 週の児では正常所見の範囲であるが、満期産児では重篤な問題を示唆する可能性がある(Hellström-Westas ら 2003、Menache ら 2002)。上図では、aEEG トレンドの振幅の最小値が 0 のラインに張り付いている。これは脳波活動のバーストが散発する等電性の平坦脳波を示唆する。

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この aEEG 表示ではバーストサプレッション(前述の症例)と発作活動の両方がみられる。トレンドグラフの 3 つのトレンドチャンネルと、対応する脳波元波形の 3 チャンネルは、脳波元波形の律動性発作活動に対応するトレンドの隙間部分を強調している。このようなaEEG の隙間は発作活動の特徴である。

 

aEEG トレンドを完全に理解するためには、aEEG アトラス(Hellström-Westas ら 2003)やその他の参考資料(al Naqeeb ら 1999、deVriesら 2005、Hagmann ら 2006、Shellhaas ら 2007a、Shah ら 2008、Tao ら 2010)を広く渉猟する必要がある。 

バーストサプレッション・トレンドは、時間領域と周波数領域の測定値から導き出されたいくつかの自動分析出力値を時間領域のトレンドグラフに変換したものである。トレンドグラフには、1)1 分当たりのバースト数、2)バースト間の間隔、3)%サプレッションまたはバーストサプレッション比(BSR)がある。記録される脳波はバースト、サプレッションまたはアーチファクトに分類される。システムによっては、バーストとサプレッションの区別を振幅値のみに依存しているものもある。たとえば、電位>±5 μV および長さ>0.5 secなどである(Rampil 1998、Doyle および Matta 1999)。別のシステムでは、バーストサプレッションの指標を短時間フーリエ変換(short time Fourier transform;STFT)スペクトル分析および振幅値 as well as を用いる非線形エネルギー演算子(NonLinear Energy Operator;NLEO)法を用いて算出し、2 段階バンドパス・フィルタを用いて脳波区分をアーチファクト、バーストまたはサプレッションに分類する(Agarwalら 1998、Sarkela ら 2002)。

 

バースト比および時間領域が生成される。 

 

1 分当たりのバースト数(bursts per minute;BPM)は、1 分間に出現するバーストの数を Y 軸に、時間(分)を X 軸にとる単純な時間領域の指標である。単位時間は 60~600 秒で、時間枠を任意にずらせる仕様が一般的である。 

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上図は、バースト率を 0~10 bpm(Y 軸)、表示時間を約 2 時間(X 軸)とした BPM トレンドグラフである。この症例では、検査開始初期に約 5 bpm だったバースト率が、40 分後には約 1 bpm に低下している。

 

バースト間の間隔(interburst interval;IBI)は、脳波活動のバーストから次のバーストまでの時間を表す単純な時間領域の指標である。バースト間の平坦相の時間(秒)を Y 軸に、時間を X 軸にとるグラフで表される。この指標は比率ではなく、時間の絶対値である。

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上図は、バースト間の間隔のスケールを 0~200 分(Y 軸)、表示時間を約 4 時間(X 軸)とした IBI トレンドグラフである。この症例では、検査開始初期には 10 秒未満だった IBI 値が、40 分後には 30~200 秒に増加している。 

 

バーストサプレッション比(burst suppression ratio;BSR)サプレッション指数または%サプレッションとは、各脳波区分の全時間に対する大脳活動が抑制されている時間の比(100%をかけて百分率で表す)をいう。Sarkela ら(2002)によれば、以下の式で表される。 

 

BSR=抑制の総時間/エポック長 

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上図は、抑制時間の割合を 75~100%(Y 軸)、表示時間を約 2 時間(X 軸)とした BSR トレンドグラフである。この症例では、検査開始初期には約 80%だった BSR が、40 分後には短期間で 100%に上昇し、その後数時間をかけてゆっくりと低下している。記録にコメントされてはいないが、試験開始約 30 分後に追加投与が行われており、上記の変化は薬剤で誘発したパターンに一致すると考えられる。 

推奨表示設定 

  • 表示時間:4~12 h
  • エポック長/時間分解能:30~60 sec

 

臨床的有用性:バーストサプレッションは非特異的な脳波パターンで、「沈黙が散在する間欠的電気活動」と描写される(Otto 2008)。脳波活動のバーストと平坦脳波が交互に繰り返されるこの脳波パターンは、未熟児でみられた場合にのみ、真に正常と考えられるが、正常成人でも麻酔薬を投与した結果として観察されることがある。ICU では、脳低酸素症または無酸素症(Rampil 1998、Niedermeyer 2009)の結果として、あるいは代謝性脳神経保護(Doyle および Matta 1999)やてんかん重積管理のための薬物誘発昏睡の結果として、観察されることがある。新生児の神経学的問題と相関するバーストサプレッションの優勢は、予後不良と一致する (Menache ら 2002)。 

 

1 分当たりのバースト数およびバースト間の間隔は計算が簡単なため、脳波抑制の深さを評価する標準的指標とされてきた。しかし、いずれの指標も脳波活動のバーストの長さを考慮しないため、補助的指標として BSR が利用されている。バーストサプレッションの指標をモニタリングすることは、麻酔薬の用量滴定や神経保護的昏睡の深さの評価に有用である。バーストサプレッションは脳代謝の優れた指標であり、代謝の低下は神経保護と密接な関係があると考えられるため、バーストサプレッションの測定値は神経保護のレベルを知るための効果的な指標となりうる。この問題についてはさらなる研究が必要である(Doyle および Matta 1999)。BIS®(バイスペクトル指数)等のいくつかの装置は、BSR をバイスペクトル指数の成分として用いることで、麻酔モニターの有効性を改善している(Rampil 1998、 Riker ら 2003)。 

 

同じように、バーストサプレッションは無酸素症と相関すると考えられるため、患者が無酸素性イベントから緩徐な δ 波のパターンを呈した後、正常脳波に回復または完全な等電性脳波に移行する経過のモニタリングにも有用である(Niedermeyer 2009)。 

 

周波数に特異的なトレンド 

高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform;FFT)は、時間領域情報を周波数領域情報に変換するアルゴリズムである。計算が比較的速くて簡単な点が便利とされる。選択された脳波区分のパワーを Y 軸に、周波数を X 軸にとるグラフ(下図)で表される。 

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上図は短い脳波区分を FFT 変換した例である。FFT グラフの各ピークは各周波数成分のパワーの最高値を示す。この例では、δ 波の低い周波数成分(約 1~2 Hz)にもピークが認められるが、優位なのは 11 Hz 前後のピークであり、選択された脳波区分ではこの周波数成分のパワーが最大であることを示している。通常のモニタリングでは、このような分析はもっと長い脳波区分(10~30 秒)に対して行うが、ここではわかりやすいように短い脳波区分を用いている。データを時間領域から周波数領域へ変換する式および計算方法がいくつか提案されている(Rampil 1998、Otto 2008)。 

 

トータルパワー・周波数・時間

スペクトログラムFFT スペクトログラム圧縮スペクトルアレイ(CSA)密度スペクトルアレイ(DSA)色密度スペクトルアレイ(CDSA)は、周波数(Hz)を Y 軸に、時間を X 軸に、パワーを Z 軸にとる周波数領域のトレンドグラフである。カラースケールで表示され、寒色系(黒、青)は低い電位を、暖色系(赤、白)は高い電位を表す。 

CSA トレンドは 1971 年、Bickford により紹介された。この方法では、連続する脳波区分を FFT 変換して時系列順に積層する。Y 軸に時間を、X 軸に周波数を、各 FFT グラフの縦軸(Z 軸)に振幅をとったグラフで表示される。 

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上図は、周波数を 0~30 Hz のスケールで Y 軸にとったスペクトログラム/CDSA トレンドである。前述の CSA トレンドと同じデータを使用しているが、パワーはピークではなくカラースケールで表示されている。この例では、深い青が低いパワーを、赤やオレンジが大きいパワーを示す。症例は睡眠覚醒周期を呈する正常患者で、4 時間分の記録を表示している。試験開始直後の患者は覚醒しており、α 波の領域に著明なパワーを認める。しかし患者が入眠する約 00:15 からほぼ 02:00 にかけて α 波は消失し、δ 波と θ 波の領域に大きなパワ ーが出現する。その後、患者が覚醒する 02:00 から 03:15 まで α 波が回復しているのがわかる。 

推奨表示設定

  • 表示時間:2~4 h
  • エポック長/時間分解能:10~20 sec
  • モンタージュ:双極

臨床的有用性:周波数領域のトレンドによって追加される周波数情報は、脳波の周波数成分の変化を見るのにたいへん便利である。周波数成分の変化は、トータルパワーの顕著な変化を伴うこともあれば、伴わないこともある。急性虚血性脳卒中の評価をしていたある研究者は、手作業で抽出した周波数帯をマッピングすることにより、目視検査よりも効果的に δ 波、θ 波帯域の徐波異常を検出している(Murriら 1998)。麻酔の結果としてトータルパワーが変化することは実証されているが、別の研究によると、頸動脈内膜剥離術の頸動脈クランプ中には周波数特異的な変化が起きるという(Visser ら 1999;Laman ら 2001)。脳波の周波数成分の変化は CSA(Otto 2008)、DSA、スペクトログラム等の方法で表示すると非常にわかりやすくなることが多い。また、発作活動時の周波数成分の変化(Scheuer 2002、Stewartら 2010)も周波数領域のトレンドにより確認されている。 

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上図(トレンド表示時間:2 h)を見てもわかるように、スペクトログラムは律動性発作活動を強調するのに便利である。EEG 画面の脳波元波形はトレンド上の黄色いカーソルに対応する。この部分を含め、2h の表示時間に計 7 つの発作イベントをはっきり見分けることができる。 

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上の例(1 時間のスペクトログラム)では、マーカーが置かれた約 15:08 に対応する脳波元波形が EEG 画面に表示されている。優位な周波数成分は δ 波と θ 波である。この後、患者は著明な等電性の時相を伴う明白なバーストサプレッションに移行する。δ 波、θ 波の周波数領域が顕著に低下し、全体的なパワーも減衰するのがわかる。 

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絶対バンドパワーまたはトータルバンドパワーは、脳波の周波数成分の変化を強調する時間領域のトレンドである。各周波数帯を成分とするトータルパワー(μV)を Y 軸に、時間を X 軸にとったグラフで表示される。これらのバンドパワー・トレンドは、絶対パワー・トレンドよりもかなり多くの情報を得ることができる。各周波数成分は以下のスケールで表示される。

  • 赤=δ 波
  • 黄=θ 波
  • 緑=α 波
  • 青=β 波

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上図は表示時間 4 h のトータルバンドパワー・トレンドである。患者は正常な睡眠覚醒周期を呈している。00:15 から 02:00 にかけては δ波、θ 波活動が優勢であるが、その後、患者が覚醒し再び入眠するまでの 1 時間は α 波が優勢となっている。

推奨表示設定

  • 表示時間:2~4 h
  • エポック長/時間分解能:10~20 sec
  • モンタージュ:双極

臨床的有用性:スペクトログラム、密度スペクトルアレイ、圧縮スペクトルアレイ等のトレンドと同じように、睡眠覚醒周期、麻酔、代謝性パターン、発作等と関連する周波数成分の変化を見ることができる。 

17-cdsa06

上図は、発作のモニタリングに絶対バンドパワー・トレンドを利用した例である。症例は前述のエンベロープ・トレンドを用いたものと同じであり、発作イベントに対応して数個のピークが出現しているところも同じである。注目すべきは、ピークが周波数成分の変化も示しており、発作の経時的変化が実際に見て取れる点である。トレンドには他のピークもみられるが、見てわかるように、色は単調な赤、すなわち δ 波で構成されており、脳波元波形では大きなアーチファクトに対応していた。真の発作のピークがアーチファクトのピークと異なることは脳波元波形を見れば明らかである。発作であれば、まず δ 波の増加(発作開始時の棘徐波)があり、次に異なる周波数の混在(律動性棘波バーストと鋭波)が続き、さらに棘徐波複合(δ 波が優勢)が増加し、発作後の時相では脳波が平坦化する。すべての発作型でまったく同じパターンをたどるわけではないが、発作には背景活動とは区別できる典型的なパターンがある。 

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上の例(表示時間:1 h のトータルバンドパワー)では、約 15:08 に置かれたマーカーに対応する脳波元波形が EEG 画面に表示されている。優位な周波数成分は δ 波、θ 波の周波数領域に認められる。 

17-tbp02

この後、患者は著明な等電性の時相を伴う明白なバーストサプレッションに移行する。δ 波、θ 波の周波数領域が顕著に低下し、全体的なパワーも減衰するのがわかる。(前述のスペクトログラムを使用したものと同じ症例。) 

周波数比

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上図は、左脳半球の脳波から短い区分を選択し、高速フーリエ変換(FFT)でスペクトル分析(中央)を行った例である。その後、このパワースペクトルを用いて右半球脳波の相対バンドパワー分析を行った。相対バンドパワーとは、各周波数成分のパワーの相対的割合をカラーブロックで表示する方法である。この症例では、FFT スペクトルに複数のピークが認められるが、パワーの最大値は θ 波の領域にみられ、ピークも最大となっている。各カラーブロックの大きさはトータルパワーに対する割合を反映し、θ 波を示す黄色のブロックは最大のブロックとなっている。

 

相対バンドパワーは、全周波数成分のパワーに対する各周波数成分のパワーの割合(%)を Y 軸に、時間を X 軸にとる周波数領域のトレンドグラフである。下図 a~c に示すように、このトレンドは各周波数成分の相対的なパワーを示すブロックを縦に重ねたバーを横に連続的に並べたグラフとして表示される。

17-rbp

相対バンドパワーのトレンド表示に使用するカラースケールは絶対バンドパワーと同じである。 

  • 赤=δ 波
  • 黄=θ 波
  • 緑=α 波
  • 青=β 波

17-rbp02

上図は、相対パワーを 0~100%のスケールで Y 軸に表示した相対バンドパワーのトレンドグラフである。表示時間(X 軸)は 4 時間。症例は睡眠覚醒周期を呈する正常成人である。注目すべきは、初期および 02:00~03:15 で α 波が優勢となっている点である。 

推奨表示設定

  • 表示時間:2~8 h
  • エポック長/時間分解能:10~20 sec
  • モンタージュ:双極、個別チャンネルまたは半球

臨床的有用性:スペクトログラム、DSA、CSA、バンドパワー等のトレンドと同じように、睡眠覚醒周期、麻酔、代謝性パターン、発作、非対称等と関連する周波数成分の変化を見ることができる。相対バンドパワーのトレンドに表示される情報は、FFT で変換した各周波数成分を単純に分別し、トータルパワーに対する割合(%)または比として表示したものである。 

17-eve01

上図は虚血性イベントで入院した患者のトレンドで、「Left(左)」と「Right(右)」の表示はそれぞれ左半球と右半球の相対バンドパワ ーを示している。注目すべきは、右半球で δ 波のパワー(赤)が顕著に低下している点である。「L a/d」と「R a/d」の表示はそれぞれ左半球と右半球における α/δ 比を示す。詳細は以下に述べる。 

 

δ 比、α 比、α/δ 比(Alpha-Delta Ratio;ADR)は、全周波数成分のパワーまたは別の周波数成分のパワーに対する特定周波数成分のパワーの比を Y 軸に、時間を X 軸にとってグラフ化した周波数領域のトレンドである。 

17-eve02

くも膜下出血に関する研究では、トータルパワーの変化の後、α比の変化が患者の 65%で、δ 比の変化が 45%で認められた(Labar ら 1991)。 

 

血管けいれんに起因する遅発性脳虚血(delayed cerebral ischemia;DCI)に関する研究によれば、FFT 変換した量的脳波指標 12 個のなかで、α/δ 比は遅発性脳虚血と最も強く相関する指標であった。患者の α/δ 比は中央値で 24%低下していた。(Claassen ら 2004)。これらの所見から、くも膜下出血(SAH)の発症後できるだけ早期に量的分析を含む連続脳波モニタリングを開始し、14 日間は継続することが推奨される(Claassen ら 2005)。 

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上図で「L a/d」および「R a/d」と表示されたトレンドグラフは、虚血性イベント後の患者のそれぞれ左半球と右半球における α/δ 比を示している。注目すべきは、α/β 比が右半球に比べ左半球(相対的に健康な側)で顕著に高い点である。 

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上図は、バーストサプレッションにおける α/δ 比である。注目すべきは、α/δ 比が低く、変動がわずかである点である。 

推奨表示設定

  • 表示時間:2~12 h
  • エポック長/時間分解能:20~120 sec
  • モンタージュ:個別チャンネルまたは半球

α 波割合変動性(percent alpha variability;PAV)、α 波割合および相対的α 波割合は、全周波数成分(1~20 Hz と定義される)のトータルパワーに対するα 波成分(6~14 Hz と定義される)のトータルパワーの割合をY 軸に、時間をX 軸にとる周波数領域のトレンドグラ
フである。α 波の変動性は質的、量的に測定することができる。

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上図は、α 波割合の計算方法である。脳波区分1 には大量のα 波が含まれており、FFT のグラフではピークで、スペクトルでは最も大きな割合を占める緑色のブロックで表現されている。脳波区分2 に含まれるアルファ波は脳波区分1 より少なく、脳波区分3 にはほとんど
含まれない。緑色のブロックはα 波の割合を示し、これを時系列に沿って並べたものがトレンドグラフである。実際には、各ブロックのα 波が由来する脳波区分の長さは2 分である。

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上図は、表示時間8 h のPAV トレンドである。睡眠覚醒周期を繰り返す正常人のα 波割合が表示されている。 注目すべきは、この脳波記録に含まれるα 波の割合が患者の覚醒相では約80%、睡眠相では約10%と、「起伏」に富んでいる点である。この症例のα 波変動性は非常に良好であると考えられる。

推奨表示設定(Vespa ら 1997)

  • 表示ウィンドウ:8~12 h
  • エポック長/時間分解能:2 min
  • モンタージュ:双極
  • フィルタ:0.3~35 Hz

臨床的有用性:Vespa ら(1997)は、急性くも膜下出血患者でα 波バンドパワーを使用する際のこの新しい変数の有効性を評価した。血管けいれんはくも膜下出血の重篤な合併症で、転帰は不良である。この研究(1997)でVespa らは、血管造影法で確認された血管けいれん患者の100%で、血管けいれんイベントと同時またはそれ以前にα 波変動性の変化を認めている。実際、この研究では、患者19 人中10 人が、経頭蓋ドップラー(TCD)で確認した血管けいれんの発症2 日以上前にこれらの変化を呈しており、α 波変動性(relative alpha variability;RAV)の予測性の高さを証明している。

α 波変動性とα 波割合の概念は異なる。知ってのとおり、α 波を呈するほとんどの人は、睡眠覚醒周期、注意レベル、不活化等によりα波が変動する。つまり、α 波は存在するだけではなく、変動している。対照的に、重度の無酸素性イベントを起こした患者は、前頭部優
位の広汎なα 波成分の活動に代表されるα 昏睡を呈する場合がある。これは「求心路を遮断された脳皮質における『皮質の自己律動性』の発現と考えることもできる(Niedermeyer 2009)」ような律動性活動で、予後不良を示唆する。このような症例では、α 波は大量に存在
するが、変動性はない。

外傷性脳損傷の長期転帰を評価した研究(Hebb ら 2006)で、α 波変動性の変化は視床の損傷と関連づけられている。著者らは、α 波変動性の変化が6 か月後の臨床転帰を予測する感受性指標であることを示した。

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上図は、くも膜下出血を起こした患者のPAV を示したトレンドである。EEG 画面には黄色のカーソルが置かれた時間に対応する脳波元波形が表示されている。この時点で血管けいれんは起こっておらず、患者は覚醒状態で反応ありとのコメントが付されている。PAV を見
ると、相対α 波パワーの割合は比較的高い。

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上図では、PAV トレンド上の黄色いカーソルが今度は数時間後に移動されている。対応する脳波元波形では、脳波活動にかなりの徐波化が認められる。PAV を見ると、相対α パワーが著しく低下している。時は血管けいれん後で、患者は反応なしとのコメントが付されてい
る。

他のトレンド

律動ラン検出・表示は、「脳波の律動性成分のみを表示する新しいトレンド」(Persyst 2009)とされている。振幅/周波数(μV/Hz)をY軸に、時間をX 軸にとったグラフで表わされる。

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上図は、周波数域を1~25 Hz、振幅範囲を0~15 μV、表示時間を推奨の1 h で表示している。報告によれば、このアルゴリズムは律動性活動のみを表示(ただし、アルゴリズムのメカニズムは極秘とされているようである)し、トレンドグラフは律動性パターンの周波数を濃い色で表示するように設計されている。濃い色は律動的活動のみに関して各周波数成分における振幅のピークを表すものと推定される。

 

臨床的有用性:このトレンドは律動的活動を強調するため、発作活動の検出に最も有用であると期待されている(Brenner 2009)。

推奨表示設定

  • 表示時間:1 h
  • エポック長/時間分解能:3 sec/1 sec
  • モンタージュ:半球平均

トレンド表示のパラメータ

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上図A のトレンドには、複数の発作イベントを呈する患者のエンベロープ・トレンドが表示されている。上段が左半球(C3-O1)、下段が右半球(C4-O2)のトレンドである。記録されたままをトレンド表示しているため、このままの表示設定ではあまり有益な情報は得られそうもない。振幅がトレンドのスケール(設定目盛)を超えていて、発作イベントが背景活動と区別できないからである。まずしなければならないことは、表示スケールの設定を変更することである。上図B では、左半球(C3-O1)の表示スケールが調整されている。最小と最大の振れが振幅スケールの範囲内に収まって見やすくなっている。

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表示時間とは、トレンドグラフの画面に表示される時間の長さ(h)のことである。上の例の図C では表示時間が12.5 h に設定されており、発作イベントを識別することは困難である。図D のように、表示時間の設定を2 h にしてトレンドを引きのばすと発作イベントが視認しやすくなる。

 

17-12

時間分解能、エポックまたは脳波区分の長さとは、トレンド分析・グラフ表示の単位となる脳波区分の時間の長さを指す。この長さを短くすればデータは増える。しかし、データが増えたからといって脳波の全容がわかりやすく表示されるとはかぎらない。上図E はトレンドの時間分解能を2 sec として表示したものだが、データが膨大なため「ノイズの多い」様相を呈している。時間分解能を10 sec に変更(図F)すると、グラフがすっきりとして発作イベントがわかりやすくなる。しかし、時間区間を広くしすぎると、持続時間の短いイベントの確認が困難になる。すなわち、時間分解能を低くすると、2,3 秒のイベントは容易に失われてしまう。脳波区分を長くとる、または短くとることによって得られる利益には、それぞれ一長一短がある(Agarwal ら1998)。

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脳波を適切に表示するためには、正しいトレンド「モンタージュ」を選ぶことが重要である。上図1 では、絶対バンドパワーとスペクトログラムのトレンドを、左半球(C3-O1)と右半球(C4-O2)について表示している。カーソルは16:20~16:30 の発作イベント上に置かれている。その後の16:30~16:40 の全般性発作イベントに比べるとかすかな変化である。右半球(C4-O2)でイベントが多発している状況は、スペクトログラムにもバンドパワー・トレンドにも見ることができる。

図2 は図1 と同じ表示時間のトレンドと脳波元波形を表示しているが、左右のトレンドはそれぞれ左半球と右半球の平均を表示している。
この表示方法では、16:30~16:40 の全般性イベントを除き、発作イベントの識別はかなり困難になっている。

図3 も図1、図2 と同じ表示時間のトレンドと脳波元波形であるが、トレンドはすべての電極の「全球平均」(バンドパワー・トレンドとスペクトログラム・トレンドがそれぞれ一本ずつになっている)を表示している。全電極の平均であるため、トレンド上には全般性発作イベントしか確認することができない。

 

トレンドの組み合わせ

トレンド法は数学的な分析ツールであるが、われわれが脳波と呼ぶ広大で多様な波の宇宙によって欺かれることがある。このような数学的ツールを用いて脳波を評価する場合、複数のツールを組み合わせて使うと、よい結果が得られる。あるトレンド法では脳波の変化に対する感度が低い、または高すぎるようにみえても、他のトレンドを併用することによって、矛盾するように思われた数学的出力に解答が得られることもある。このような理由から、複数のトレンドを「レビュー画面」にまとめて表示することも多い。

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上図のレビュー画面に表示されているのは、ある検査(前述)における左右の半球の脳波の絶対バンドパワー、スペクトログラム、相対バンドパワー、aEEG である。異常脳波が顕著な等電性の時相を伴うバーストサプレッションに移行しいくところが示されている。その周波数成分と振幅の変化がそれぞれのトレンドグラフに描出されているが、相対バンドパワーのグラフはほかのトレンドグラフと比べて変化が不明瞭である。このようなイベントを認識するためには、複数のトレンドを参照することが有用となる。

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上図のレビュー画面(表示時間:1 h)に表示されているのは、発作確率トレンド(初出)、律動ラン検出・表示(Persyst)の左右半球トレンド、相対的非対称スペクトログラム(初出)およびaEEG のグラフである。これらのトレンドグラフは4 つの発作イベントを確実に描出しており、この脳波に関する律動性イベントの評価に高い信頼性を与えている。

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上図のレビュー画面(表示時間:2 h)に表示されているのは、エンベロープ・トレンド、スペクトログラム、絶対バンドパワーおよびaEEG のグラフで、それぞれ左右半球のトレンドが表示されている。前述の患者と同じ脳波を示しているが、表示時間を2 h にしてより多くのデータを表示している。これらのトレンドは発作イベントを効果的に強調しており、全体として、脳波における律動性イベントの特性評価に高い信頼性を与えている。

 

要約

本章では、連続神経モニタリングにおける脳波トレンドグラフの有用性について概要を示すことを目的とした。トレンドグラフになじみのない臨床者でもわかるように、初心者向けの記述を心がけた。最も一般的に用いられるトレンドグラフとその臨床的応用について解説し、必要に応じて表示パラメータに関する基本的な説明を加えた。本稿はすべてを網羅する包括的なリストではなく、現在臨床で最もよく用いられるトレンドグラフの小さなリストにすぎない。

脳波のトレンドグラフは、患者の神経学的状態を評価するために、臨床者が臨床的判断を行う際の有用なツールとして利用されてきた。
このツールは、熟練した脳波検査技師が患者の脳波の「全体像」を手っ取り早く把握するための方法を提供し、脳波上の焦点性または全般性パターン、律動性活動、全般性または焦点性徐波化、周期的、漸進的または急激な変化についての迅速な評価を可能にする。しかし忘れてならないことは、トレンドグラフは生の脳波を判読するための補助的手段でしかないということである。

トレンドグラフによって脳波は非常に単純化されるが、脳波をデジタル処理したトレンドグラフに基づいて患者ケアの意志決定を行う臨床者には、やはり多くの経験が求められる。脳波に関する知識と経験が豊富な臨床者にとって、トレンドグラフはデータを整理するための優れたツールである。しかし、脳波の判読にそれほど精通していない臨床者にとっては、脳波の判読のため緊急に専門家を呼ぶ必要があるという臨床判断をするための情報を提供してくれる有用なツールである。

 

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