成人患者への持続脳波モニタリング 第9章 感染症

第9章  感染症

Faye Mc Nall, R. EEG T., MEd

概要

中枢神経系の感染症の原因はさまざまであり、その程度と転帰は多岐にわたる。脳波は正常なものから軽度の異常、さらには著しく異常なものまでさまざまなパターンを呈する。小数の病型では、脳波は非常に特徴的で、特異的診断の確定に役立つこともある(SchomerおよびLopes da Silva 2011)。

 

連続脳波検査の有用性

脳波は、中枢神経感染症の治療中に神経機能が改善しているのか、悪化しているのかを判断するための材料として、患者の予後予測に重要な役割を果たす。連続脳波モニタリングは、脳波の変化を1日毎に比較したり、非けいれん性てんかん発作が起こっていないかどうかを確認したりするのに便利である。非常に低振幅の活動や広汎性徐波化に続いて脳電気的無活動にまで悪化する脳波像は深刻な脳障害を示唆し、感染後の脳機能喪失や差し迫った死を暗示する。特徴的な脳波パターンを呈する中枢神経感染症がいくつかある。これらは多くの場合、特異的な診断が可能で、のちに脳生検で確認することができる。

 

髄膜炎

髄膜炎は髄膜の炎症である。髄膜は脳を覆う硬膜、くも膜および軟膜からなる。髄膜に感染症を起こす可能性のある因子は数多い。

 

化膿性髄膜炎

肺炎、耳感染症、耳鼻咽喉科処置による脳脊髄液の漏出、頭蓋手術等の合併症として、細菌が髄膜層に進入することがある。起炎細菌としては、髄膜炎菌、連鎖球菌、ブドウ球菌があげられる(SchomerおよびLopes da Silva 2011)。

 

脳波所見:広汎性、全般性徐波化が最も一般的な所見で、しばしば前頭部優位に認められ、前頭部間欠律動性δ波(FIRDA)を構成する(図9-1)。臨床的発作およびエレクトログラフ発作を起こすことがあるが、てんかん重積はまれである(SchomerおよびLopes da Silva 2011)。

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図9-1.広汎性に 徐波化した背景に前頭部間欠律動性δ 波(FIRDA)(ボックス)がみられる。
[T7(10-10 法)はT3(10-20 法)、P7(10-10 法)はT5(10-20 法)、T8(10-10 法)はT4(10-20 法)、P8(10-10 法)はT6(10-20 法)にそれぞれ対応する]。

 

脳低部髄膜炎

マイコバクテリア(リステリア、ボレリア)による感染症および結核性髄膜炎は、異常脳波を呈する可能性が高い。この種の感染症によくみられる合併症は脳血管炎であり、これも異常脳波の一因となる。異常脳波の例としては、全般性徐波化、焦点性発作放電、エレクトログラフ発作など多岐にわたる(SchomerおよびLopes da Silva 2011)。

 

真菌性および寄生虫性髄膜炎

免疫抑制患者や安全でない食料や飲料水を摂取した人は、神経嚢虫症またはトキソプラズマ症になる可能性がある。脳波に焦点性徐波異常がみられることがある(Schomer and Lopes da Silva 2011)。

 

ウイルス性髄膜炎

ウイルス性髄膜炎の場合、脳波に異常を認めることは比較的少ない。ウイルス性髄膜炎と診断された患者の脳波を調べたいくつかの研究によると、異常脳波を認めたのは患者の1/3~1/2で、その多くは徐波化であった(SchomerおよびLopes da Silva 2011)

 

脳波所見:多種多様な感染因子により引き起こされる脳炎では、非特異的な脳波所見が一般的である。異常所見としては、背景パターンの中等度~重度の徐波化(図9-2)、てんかん発作放電、まれに予後不良例ではバーストサプレッションがみられる。連続脳波検査は脳炎の予後予測に有用な場合がある。ウイルス性脳炎では顕著な異常脳波が急速に改善し、臨床的改善と相関する可能性がある(SchomerおよびLopes da Silva 2011)。

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図9-2.脳炎患者の広汎性徐波化

 

単純ヘルペス脳炎
単純ヘルペスウイルスは脳炎を引き起こすことがあり、側頭葉を標的とすることが最も多い。発熱、混乱および発作が主症状である。

 

脳波所見:単純ヘルペス脳炎は特徴的な脳波像を呈する傾向がある。多くの場合、一側性側の頭葉病変が焦点性の脳波の変化を引き起こす(図9-3)。焦点性で高振幅の鋭い複合波が出現し、非常に周期的なパターンの周期性一側性てんかん様放電(PLEDs)を呈することがある。左右の脳半球に出現する両側独立性周期性一側性てんかん様放電(BIPLEDs)を呈することもある。連続脳波モニタリングにより脳波パターンの経時的変化を知ることができる。変化は数週間持続する可能性があり、疾患に対する効果的な治療法により軽減する(SchomerおよびLopes da Silva 2011)。

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図9-3.ヘルペス脳炎患者の右側頭部領域における周期性高振幅徐波(矢印)
[T7(10-10 法)はT3(10-20 法)、P7(10-10 法)はT5(10-20 法)、T8(10-10 法)はT4(10-20 法)、P8(10-10 法)はT6(10-20 法)にそれぞれ対応する]。

 

クロイツフェルト・ヤコブ病
クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob Disease;CJD)は最もよく知られたプリオン病である。潜伏期間が非常に長期に及び、症状が明らかになるまで数か月から数年もかかることから「緩慢なウイルス感染症」と呼ばれる。クロイツフェルト・ヤコブ病は海綿状脳症を引き起こす(Chusid、1976)。臨床所見として、急速に進行する認知症、そして病気の進行に伴い自然発生的に起こる、時には刺激に対する反応として現れるミオクローヌス反射があげられる。クロイツフェルト・ヤコブ病に治療法はないため、昏睡と死に至る病気の経過は避けられない(SchomerおよびLopes da Silva 2011)。

 

クロイツフェルト・ヤコブ病は脳脊髄液、角膜組織、脳組織等、感染者由来の特定組織に暴露することによって伝播するため、特別な感染予防策が推奨されている。感染因子は殺菌・消毒処理に抵抗性がある。できる限り使い捨ての電極および装置を使用すべきである。再理由可能な電極を使用する場合は、134℃で18分間殺菌する(SullivanおよびAltman 2008)。

 

脳波所見:クロイツフェルト・ヤコブ病は、脳波パターンが独特で特徴的となるまれな疾病のひとつである。病気の早い段階において、混乱と軽度の認知症のほかに症状が認められない場合、脳波は背景の徐波化を伴う非特異的異常を呈する可能性が高い。経時的または連続脳波には、周期性鋭徐波複合が経時的に出現し、症状の発症後12週間で88%の患者がこの脳波像を呈する。最終的には、すべての背景律動が消失し、周期性鋭波が優勢となる(図9-4および9-5)。 これらの変化は大きな音などの刺激に対する反応として現れる可能性がある(Drury and Beydoun 1996)。疾患の後期では、脳波像はバーストサプレッションに悪化し、死が近づくとともに電気的無活動に移行する(図9-6)(SchomerおよびLopes da Silva 2011)。

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図9-4.クロイツフェルト・ヤコブ病患者。1~2 秒ごとに全般性周期性複合波がみられる。

 

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図9-5.別のクロイツフェルト・ヤコブ病患者。1~2 秒ごとに全般性周期性複合波がみられる。

 

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図9-6.脳電気的無活動(ECI)

 

脳膿瘍
脳膿瘍は脳組織内の限局性の化膿性感染である。原因としては、中耳炎や副鼻腔炎からの感染拡大、異物または手術器具の脳穿通などがあげられる。症状は他の脳腫瘤病変の影響に似ており、頭痛や頭蓋内圧上昇が一般的に認められる。

 

脳波所見
通常、脳の感染領域と相関する焦点性徐波化が脳波上に出現する(図9-7)。頭蓋内圧の上昇が起きた場合、 より全般性の異常を認める可能性がある(Tyner ら、1989)。

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図9-7.左半球に左前頭部-側頭部領域で最大化する焦点性徐波化がみられ(ボックスは左側頭部の記録チャンネルを示す)、右後頭部に9 Hz の後頭部優位律動 がみられる。患者は左側頭部膿瘍であった。

[T7(10-10 法)はT3(10-20 法)、P7(10-10 法)はT5(10-20 法)、T8(10-10 法)はT4(10-20 法)、P8(10-10 法)はT6(10-20 法)にそれぞれ対応する]。

 

参考文献

Chusid JG. Correlative Neuroanatomy and Functional Neurology: 16th Edition. Los Altos, CA: Lange Medical Publications; 1976.

Drury I, Beydoun A. Evolution of Periodic Complexes in Creutzfeldt-Jakob Disease. Am J Electroneurodiagnostic Technol 1996;36:230—234.

Netter F. The Ciba Collection of Medical Illustrations: Volume 1: Nervous System. CIBA Pharmaceutical Company; 1977.

PubMed Health. Encephalitis. 2010. On the Internet at http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedhealth/PMH0002388/

Schomer DL, Lopes da Silva FH. Niedermeyer’s Electroencephalography: Basic Principles, Clinical Applications and Related Fields: Sixth Edition. Wolters Kluwer; 2011.

Sullivan LR, Altman CL. Infection Control: 2008 Review and Update for Electroneurodiagnostic Technologists. Am J Electroneurodiagnostic Technol 2008; 48:140—165.

Tyner FS, Knott JR, Mayer WB. Fundamentals of EEG Technology: Volume II. Lippincott Williams & Wilkins, 1989.