成人患者への持続脳波モニタリング 第1章 ベッドサイドにおける脳波パターン認識の意義

第1章 ベッドサイドにおける脳波パターン認識の意義

Anita Schneider, R. EEG/EP T., CNIM

脳波検査(electroencephalography;EEG)と脳の関係は、心電図検査(electrocardiography;ECG)と心臓の関係に似ている。連続脳波(continuous EEG;cEEG)は現在、連続心電図や血圧と同様に、モニタリングする価値のある重要な生物物理指標であると見なされている(Scheuer 2002、Wartenberg およびMayer 2005)。

 

連続脳波検査は、意識障害や急性脳虚血を発症するリスクが高い重症患者の脳波を長期間(数時間、数日または数週間)にわたって連続的にデジタル記録した脳波と定義される(Hirsch 2004)。技術の進歩により、これらの指標をビデオに撮影しながら(またはせずに)モニタリングすることが可能となる。リアルタイムで波形を表示することに加え、長期にわたって収集したデータをさまざまなトレンドグラフに表示する技術は、重要なイベントを素早く同定するために特に有用である。ネットワーク機能により、病院内あるいは家やその他の離れた場所から遠隔的にモニタリングを行うことができる。

 

連続脳波モニタリングの活用が進むとともに、緊急に治療を要する重要な脳波パターンを認識する能力が様々な専門領域の臨床者に求められている。さまざまな専門分野における医学教育の現場で、脳波に関する基本的な知識はますます重要になっており、ベッドサイドで患者のケアに携わる臨床者は、ケアの質を改善するため脳波パターンとその臨床的意義を理解する必要がある(Chau ら 2010)。

 

心電図でST 部の新しい変化を認識することにより適切な治療が促進されるのと同じように、脳波の異常を適時に認識・管理することは非常に重要である。ほとんどの心電図は最終的に心臓専門医による解釈を受けるが、ベッドサイドの臨床者には緊急処置が必要な基本的な異常を認識できる能力が期待される。このことは脳波についても当てはまる(Chau ら 2010)。

 

連続脳波検査を行う最も一般的な理由は、この検査がてんかん発作を検出する信頼性が高いからである。昏睡患者や神経障害を呈する患者に起こるけいれん発作はほとんどが無症候性で、発作と典型的に関連づけられる臨床的な動きが認められない。しかし脳の中では発作が起こっている。このような発作は一般に非けいれん性てんかん発作(nonconvulsive seizure;NCS)と呼ばれ、難治性の非けいれん性てんかん発作の場合は非けいれん性てんかん重積状態(nonconvulsive status epilepticus;NCSE)と呼ばれる。これらの発作の識別と治療に失敗することは、さらに事態を悪化させる要因となり、また、転帰悪化の独立予測因子ともなる(Claassen ら 2004、Young ら 1996)。ほとんどの非けいれん性てんかん発作は非昏睡患者の連続脳波検査の最初の24 時間に検出されるが、昏睡患者や周期性てんかん様放電を呈する患者では、24 時間以上の測定時間が必要な場合がある(Hirsch 2004)。神経チェックではあまり効果が期待できない昏睡患者では、連続脳波検査を行うことにより、潜在的に治療可能なイベントを検出し、有用な予後情報を得ることができる。けいれん状態の患者では、連続脳波検査を行うことにより、治療不足や治療過多を避けることができる(Jordan 1993)。

 

連続脳波検査は、急性脳虚血を検出する最も感度のよい神経診断検査である。脳代謝と関連し、脳トポグラフィと相関する。脳卒中の応急処置の重要性が広く認められるようになり、また、急性脳卒中に対する血栓溶解療法やその他の介入治療の利用が進むにつれ、連続脳波検査の重要性はますます高まっている。連続脳波はリアルタイムの脳機能の動的な記録であり、虚血が始まった瞬間に、まだ可逆的な段階で、検出することができる。この検出感度は、患者が睡眠、鎮静、麻痺または意識障害の状態にある場合には、現在の画像検査や臨床検査のそれより優れている(Jordan 2004)。

 

診断的・予後的意義のある昏睡パターン(スピンドル昏睡、α昏睡、バーストサプレッション等)だけでなく、脳症の進行を典型的に示す特定の脳波パターンがある。脳症は通常、不可逆的なものから完全に可逆的な脳損傷までさまざまな原因による嗜眠性の知覚が鈍磨した患者でみられる(Kaplan 2006)。原因が代謝障害であれ、薬物であれ、無酸素症であれ、脳症は通常、背景活動の全般性変化と関連する(Van Cott およびBrenner 2010)。

 

2009 年にニューヨークのコロンビア大学で行われた研究によれば、敗血症患者の有意な割合が、てんかん発作(主に非けいれん性)および周期性放電を呈していた(Oddo ら 2009)。

 

連続脳波モニタリングはICU 患者に起こる一時的な発作の特性評価にたいへん有用である。昏睡状態や混迷状態の患者が明確な説明がつかない突然の所作、硬直、振戦、咬歯、興奮、または脈拍や血圧の急な変化を示すことは珍しいことではない。いずれの臨床症状もてんかん発作である可能性があるが、通常はそうではない。 このような事象の脳波記録は、患者の診断と管理に影響を及ぼす可能性がある(Hirsch 2004)。

 

薬剤誘発昏睡のため鎮静または麻痺が必要な患者では、鎮静レベルの評価と無症候性の神経学的イベントの同定に連続脳波検査が有用となる可能性がある(Jordan 1993)。

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ICU患者に対する連続脳波モニタリングの適応条件の要約

「急性脳損傷の状況でけいれん性発作を起こした後、意識障害を呈した患者(迅速な改善がみられない場合)、または明快な説明がつかない患者は、非けいれん性てんかん発作の検出のため、連続脳波検査の適応となる。発作の定量や鎮静レベルのモニタリングのため、特に麻痺または深い鎮静が必要な患者では一時的な発作の特性評価および虚血の検出のため、連続脳波検査を行ってもよい」(Hirsch、2004)。

 

参照文献

Chau DF, Bensalem-Owen MK, Fahy BG. The Effectiveness of an Interdisciplinary Approach to EEG Instruction for Residents. J
Clin Neurophysiol 2010; 27:106—109.

Claassen J, Mayer SA, Kowalski RG, Emerson RG, Hirsch LJ. Detection of Electrographic Seizures with Continuous EEG
Monitoring in Critically Ill Patients. Neurology 2004; 62:1743—1748.

Hirsch LJ. Continuous EEG Monitoring in the Intensive Care Unit: An Overview. J Clin Neurophysiol 2004; 21:332—340.

Jordan KG. Continuous EEG and Evoked Potential Monitoring in the Neuroscience Intensive Care Unit. J Clin Neurophysiol 1993;
10:445—475.

Jordan KG. Emergency EEG and Continuous EEG Monitoring in Acute Ischemic Stroke. J Clin Neurophysiol 2004; 21:341—352.

Kaplan PW. EEG Monitoring in the Intensive Care Unit. Am J Electroneurodiagnostic Technol 2006; 46:81—97.

Oddo M, Carrera E, Claassen J, Mayer SA, Hirsch LJ. Continuous Electroencephalography in the Medical Intensive Care Unit. Crit
Care Med 2009; 37:2051—2056.

Scheuer ML. Continuous EEG Monitoring in the Intensive Care Unit. Epilepsia 2002; 43:114—127.

Van Cott AC, Brenner RP. Encephalopathy and Prognosis in Coma. In: Fisch BJ (Editor). Epilepsy and Intensive Care Monitoring:
Principles and Practice. New York, NY: Demos Medical Publishing; 2010; p. 309—326.

Wartenberg KE, Mayer SA. Multimodal Brain Monitoring in the Neurological Intensive Care Unit: Where Does Continuous EEG Fit?
J Clin Neurophysiol 2005; 22:124—127.

Young GB, Jordan KG, Doig GS. An Assessment of Nonconvulsive Seizures in the Intensive Care Unit using Continuous EEG
Monitoring: an Investigation of Variables Associated with Mortality. Neurology 1996; 47:83—89.

 (特集 成人患者への持続脳波モニタリング第1章 終わり)

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