成人患者への持続脳波モニタリング 第4章 成人の正常脳波

第4章 成人の正常脳波

Denise Fortenberry, RN, MSN, ACNP-C

 

概要

正常脳波の定義を理解する最もよい方法は、脳波の周波数、振幅および形態を定義することである。

周波数(ヘルツ;Hz)とは、脳波のピークからピークまでを1個の波と数えたとき、1秒間に存在する脳波上の波の個数で識別される律動的なパターンをいう。脳波の律動は通常、その周波数で定義され、以下の成分に分類される。

• α波:8~13 Hz
• β波:>13 Hz「速波」
• θ波:4~7 Hz「徐波」
• δ波:<3 Hz「徐波」

 

振幅は時間に対する電位の変化を描く。振幅は髄膜、脳脊髄液、骨および頭皮の影響を受ける可能性がある。周波数にはそれぞれ共通の振幅があることが多い。

 

波形とは波の形態のことである。波形は鋭波、徐波、頭頂波などと記述されることがある。それぞれ容易に認識できる共通の上下運動を示す。

 

連続脳波検査の有用性

健康な成人で何が正常かを知ることは、何が異常かを理解する助けとなる。正常脳波とは、疾病、薬剤、傷害の影響を受けない覚醒中または睡眠中の成人の脳波をいう。脳波はしばしば律動的なパターンや一過性の波形により分類・記述される。

 

正常覚醒脳波

一般的な脳波の律動は、周波数、振幅、波の形態(波形)、脳内分布と相関する。律動から成人の清明さを分類することができる。

 

α律動

α律動は、国際脳波臨床神経生理学会(International Federation of Societies for Electroencephalography and Clinical Neurophysiology)により以下のように定義されている。

「覚醒状態で頭部後方に出現する8~13 Hzの律動波で、一般に後頭部の高電位を伴う。振幅は変わりやすいが、成人ではほとんどの場合50 μV未満である。閉眼状態、身体がリラックスした状態、精神が比較的不活発な状態のときに最もよくみられる。注意(特に視覚的注意)や精神的清明さにより、消失または減衰する。」

α律動は常に漸増漸減を繰り返し、脳波に独特な外観を与える。律動は通常、後頭部、頭頂部、後側頭部で最も顕著となる。最大振幅は後頭部にみられる。優位でない領域では、低周波、高振幅であることが多い。α律動は、覚醒・安静状態の成人でみられる。開眼、清明度が高い状態またはうとうと状態で律動は抑制される(図4-1)。

4-1

図4-1.後頭部に9 Hz のα 律動が両側性にみられ(丸印)、開眼(太い垂直線)とともに減衰する。

 

β 活動

β 活動はほとんどの成人でみられ、覚醒し意識清明な成人で出現する。周波数は13 Hz 以上で、振幅は通常30 μV 未満である。β 律動は広汎性に認められることが多いが、脳の前頭部と中心部で最も顕著となる。β 活動は高血流および酸素消費量とも関連づけられている(Niedermeyer 1999)。

覚醒状態の正常成人では、β 活動が左右両半球で等しく認められるはずである。β 波の非対称はしばしば脳卒中や脳腫瘍などの病態の徴候となる。高振幅β 波は頭蓋欠損部上の電極でみられることがある(図4-2)。

 

4-2

図4-2.頭蓋欠損によりC3 およびCz でβ 活動が最大となっている(ボックスはC3 およびCz からの記録チャンネルを示す)。

 

θ 律動

覚醒状態の正常成人の脳波に占めるθ 活動(4~7 Hz)の割合は小さく、組織化された律動はみられない。θ 波はうとうと状態や睡眠状態と相関する(この章の正常睡眠脳波を参照)。θ 波は小児でも顕著に認められる。

θ 波の周波数は常に、左右の脳に対称的に認められる。θ 活動の「徐波活動」が1 つの脳部位にだけ認められる場合は、通常、悪性疾患や脳卒等の脳機能障害と相関する。

 

δ 律動

δ 波は睡眠とのみ相関し、覚醒または安静状態の正常成人でみられることはない (図4-3)。

4-3

図4-3.θ 周波数が重なる広汎性δ

 

μ 律動

μ 波形は中心部(C3 および/またはC4)のみで認められ、運動皮質の機能と関連し、非活動性と関連づけられる。7~11 Hz の律動的な鋭い波形である(図4-4)。両側性にみられることもあるが、左右に移動することもある。対側の手の動きにより律動が抑制される。μ 波が中心部に認められる場合は正常であるが、異常な「棘波」放電のようにみえることもある。

4-4

 

図4-4.μ 律動(下線部)が右中心部―C4(ボックスはC4 からの記録チャンネルを示す)―にみられる。左手を動かすと、右側のμ 波が
減衰する。
[T7(10-10 法)はT3(10-20 法)、P7(10-10 法)はT5(10-20 法)、T8(10-10 法)はT4(10-20 法)、P8(10-10 法)はT6(10-20 法)にそれぞれ対応する]。

 

正常睡眠脳波

睡眠は急速眼球運動(レム)睡眠と非急速眼球運動(ノンレム)睡眠に分けられる。ノンレム睡眠はさらにN1、N2、N3の3つの睡眠ステージに分けられる。

睡眠ステージN1で成人が清明な状態から「うとうと」状態に移行すると後頭部領域のα律動が減少する。律動は徐波化し、目立たなくなる。睡眠ステージN1で成人は眼球がゆっくりと動き始め、脳波上にもそれが現れる。初期の睡眠ステージでは、徐波活動の突然な出現と「alpha dropout(α波の消失)」と呼ばれる後頭部領域のα律動の消失が認められる。

うとうと状態が深まると、しばしば頭蓋頂鋭波(V波)が出現する。頭蓋頂鋭波は、大きな陰性波とそれに続く陽性の鋭波で構成される。頭蓋頂鋭波は、中心部の脳領域で最も顕著となる(図4-6)。成人でも後頭部に4~5 Hzの鋭波が出現することがある。これは睡眠時後頭部一過性陽性鋭波(positive occipital sharp transients of sleep;POSTS)と呼ばれる(図4-5)。加齢とともに頭蓋頂鋭波およびPOSTSの出現頻度は低下する。ステージN1の正常睡眠パターンは、病理所見としての鋭波または棘波と誤解されやすい。

4-5

図4-5.後頭部に両側性の睡眠時後頭部一過性陽性鋭波(POSTS)がみられる(下線部)。


[T7(10-10 法)はT3(10-20 法)、P7(10-10 法)はT5(10-20 法)、T8(10-10 法)はT4(10-20 法)、P8(10-10 法)はT6(10-20 法)にそれぞれ対応する]。

 

睡眠ステージN2 は睡眠ステージN1 と似たバターンを示すが、顕著な特徴がいくつかある。睡眠ステージN2 の背景脳波は「緩徐な」θ活動である。また、睡眠ステージN2 の特徴としては、緩徐眼球運動の消失や睡眠紡錘波とK 複合の出現が挙げられる。睡眠紡錘波は漸増漸減を繰り返す15 Hz の律動性活動で、前頭中心部領域にみられる(図4-6)。K 複合は高振幅徐波で、睡眠紡錘波とともに複合波を構成する(図4-7)。

4-6

図4-6.睡眠ステージN2 で睡眠紡錘波(丸印)および頭蓋頂鋭波(星印)が出現している。

 

4-7

図4-7.睡眠ステージN2 でK 複合(ボックス)が出現している。


[T7(10-10 法)はT3(10-20 法)、P7(10-10 法)はT5(10-20 法)、T8(10-10 法)はT4(10-20 法)、P8(10-10 法)はT6(10-20 法)にそれぞれ対応する]。

 

睡眠ステージN3は深睡眠と相関する。脳波上ではδ波または「徐」波として現れ、徐波睡眠として知られる。徐波睡眠は、若い成人で最も顕著となる。加齢に伴い、深睡眠の量が減少する。睡眠ステージN3は長期の連続脳波検査で一般的にみられ、病的な徐波化と誤解されることがある。

 

急速眼球運動(レム)睡眠は、背景脳波の著明な変化を特徴とする。脳波はθおよびβ活動を伴う覚醒状態に似る。これは急速眼球運動と相関し、脳波上のアーチファクトとして前頭部‐側頭部導出により拾われることがある。また、レム睡眠では間欠的な鋸歯状活動が中心部導出で認められる。

 

高齢者
加齢は、脳の神経細胞消失および脳室拡大と関連づけられている。高齢者では、これらの変化はある程度であれば正常と考えられる。正常な加齢は、頭頂葉の神経細胞消失よりも前頭部‐側頭部の神経細胞消失と有意に相関する。認知症は対称的に認知に関してこのプロセスが進行したものである。

高齢者で最もよくみられる所見は、後頭部のα律動の軽度徐波化および側頭部領域の徐波化である。側頭部に短期間のδ活動をしばしば認める。これは通常、右半球より左半球で著明となる。

高齢者では一過性の睡眠波も同定が難しい。高齢者はうとうと状態の時、しばしば前頭部にδ活動が出現する。

 

薬剤が脳波に及ぼす影響
多くの薬剤はβ活動の振幅および周波数を増大させる。 これは広汎性に起こることもあるが、前頭部の脳領域で最も頻繁に認められる。β活動を増大させる薬剤としては、バルビツレート類、ベンゾジアゼピン類、三環系抗うつ薬等がある。

上記の影響以外に薬剤が脳波に及ぼす一般的な影響として、α律動の徐波化がある。徐波化を惹起する傾向のある薬剤としては、催眠薬、リチウム、フェニトインなどが挙げられる。

 

参考文献

Niedermeyer E. The Normal EEG of the Waking Adult. In: Niedermeyer E, da Silva FL (Editors). Electroencephalography: Basic Principles, Clinical Applications, and Related Fields. Baltimore, MD: Williams and Wilkins; 1999; p. 149—173.

 

Niedermeyer E. Sleep and EEG. In: Niedermeyer E, da Silva FL (Editors). Electroencephalography: Basic Principles, Clinical Applications, and Related Fields. Baltimore, MD: Williams and Wilkins; 1999; p. 174—188.

 

Rowan JA, Tolunsky E. Primer of EEG. Philadelphia, PA: Elsevier; 2003.

 

 

 

 

 

 

 

print
カテゴリー: 「ベッドサイドでの脳波パターン:成人患者への持続脳波モニタリング」, 特集