成人患者への持続脳波モニタリング 第19章 緊急異常値の報告

第19章 緊急異常値の報告

Sara Brown, MPH; Derek Janhke, MHA; Ryan R. Lau, R. EEG/EP T., CNIM, CLTM, MS; Anita Schneider, R. EEG/EP T., CNIM

 

概要

ICU の連続ビデオ脳波モニタリングは、脳の電気生理を昼夜連続で記録することができる。神経診断技師・専門家が1 日24 時間・週7日体制で連続的にモニタリングを行う場合、これを神経テレメトリー(neurotelemetry;NT)という(Hirsch 2010)。この実施モデルは支持が高く、神経診断の専門性を高めるとともに、継ぎ目のない患者管理を提供している。神経テレメトリーはインディアナ大学で導入されている方法で、その実施モデルについては本書の第20 章に詳述する。神経診断の専門家とは、長期モニタリング(Continuous Long Term Monitoring;CLTM)に関する高度な資格を有した登録脳波検査技師(Registered EEG Technologist;R. EEG T.)をいう(www.ABRET.org)。

連続脳波検査または神経テレメトリーは、臨床医が特定の状態を診断・治療する際に有用となる情報を提供する。この方法は、ICU 患者に起こるてんかん発作、主に非けいれん性の発作の検出に用いられる。また、虚血の検出やくも膜下出血患者における血管けいれんの発症を示唆する神経生理学的変化の検出にも用いられる。また、心停止後の低体温治療中の患者では、鎮静剤の滴定を行う際の補助として用いることもできる。

脳波検査でいうところの緊急異常値(critical value)または緊急検査結果(critical test result)とは、報告が遅れると患者の転帰に重大な悪影響を及ぼす恐れのある検査値またはその解釈と定義される(MA Coalition for Prevention of Medical Errors[マサチューセッツ医療事故防止連合]; www.macoalition.org/document/CTRPractices.pdf)。

 

緊急異常値の報告

報告すべき緊急異常値は、各施設が文書で明確に定義し、報告に関する特別な指示を方針書および手順書に詳しく規定することが大切である。

 

緊急異常値の報告は、連続的な神経生理学的情報を臨床医に連絡するための手段である。特定の脳波パターンおよび所見を同定し、施設の方針や手順書に定められた適切な方法で確実に周知することは、モニタリングを行う神経診断技師・専門家の責任である。この章では臨床者を対象に、一般的に緊急異常値と定義される脳波パターンと、患者管理情報を臨床者にフィードバックするしくみについて解説する。

 

連続脳波の緊急異常値の報告に関する一般的な計画書

検査技師専門家が緊急異常値を確認した場合、以下の行動を行うこと。

  • 指定の脳波判読医師に通知する。
  • 検査技師・専門家は、医師に口頭で脳波活動を説明する。
      o データを判読・解釈し、その所見を直ちに報告することは医師の責任である。
  • 判読医師は緊急検査結果を責任医療提供者に連絡する。

反応時間:医師への連絡スケジュールと、医師の応答時間が非常に重要である。医師の応答は即時(目標は10 分)であることが期待される。担当医が10 分以内に応答しなかった場合に連絡できる控えの医師を確保しておく必要がある。

報告対象となる事象が続く場合、医師は検査技師に対して新しい緊急異常値を指定することができる。検査技師は発生する事象の記録を続け、緊急異常値に達したら判読医師に連絡する。

一般的に報告される緊急異常値

発作
てんかん重積状態またはその疑い(けいれん性または非けいれん性)

  • 抗てんかん薬(AED)を投与していない患者にてんかん様放電が頻発する場合
  • 抗てんかん薬を投与していない患者の記録中に2 回以上発作が起こった場合
  • 患者が検査中に数回のてんかん発作を起こし、かつ投薬中であった場合。

半球性の変化(サプレッションまたは徐波化)

ICU 患者がIUC の処置中に半球性の変化を起こすことは珍しくない。脳波検査は(CT やMRI のような静的な検査とは対照的に)脳電気生理学を動的に反映するため、細胞損傷を即時にモニターする優れた方法である。半球性の変化は虚血性または出血性脳卒中の場合と同じように、急激に発症することがある。一側性の脳波変化はまた、血管けいれんの場合と同じように、数時間をかけて発現することもある。この脳波所見は、片方の脳半球に周波数または振幅の「変化」がみられた場合、緊急異常値として報告する必要がある。この変化は、高周波数の低下、漸次増大する徐波化または全周波数成分の抑制として始まる可能性がある。トレンド・ソフトはこれらの変化を数量化し、緊急異常値に達すると警報を発することができる(Herman 2010)。

血管けいれんの疑い

  • くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage;SAH)を起こした患者は、その後、脳血管けいれんを起こす危険性が高い。血管けいれんは出血の約3~14 日後に起こり、虚血性傷害を引き起こす。血管けいれん後の遅発性脳損傷はくも膜下出血患者17~46%で起こっており、病的状態および死亡の主要な原因のひとつとなっている(Qureshi ら 2000、Claassen ら 2001)。

くも膜下出血患者に脳波モニタリングを行う理由は、くも膜下出血の二次的障害、たとえば、虚血、頭蓋内圧上昇、局所浮腫、かん流の変化などの、血管けいれんの原因となる変化に対する感度が高いからである。これらの変化は血管けいれんが臨床的に発症する前に起こることが多く、トレンド・ソフトを用いた脳波検査で波形を経時的に分析・定量化することにより、検出することができる。
α波の変動やα/δパワー比は、血管けいれんの発症と強く関連することが示されている(Vespa ら 1997、Claassen ら 2005)。これらの指標がベースラインから10%以上低下した場合、あるいは任意の測定値からの50%以上低下した場合、緊急異常値として報告が必要となる(Claassen ら 2005)。このような変化が起こるためには数時間を要するため、観察は困難である。トレンド・ソフトはこの種の変化を数量化し、緊急異常値に達すると警報を発することができる(Herman 2010)。

低体温療法中の心停止患者に対する鎮静剤の使用

  • 低体温療法は、自発循環回復後に反応を示さない患者に対して臨床的に効果があることが示されている(Bernard ら 2002、HACASG 2002)。低体温療法の管理相および復温相では、患者に筋弛緩剤を投与してシバリングによる体温の上昇を防ぐ。また、鎮静剤を投与して麻痺状態の患者が覚醒しないようにする。しかしこれらの処置が行き過ぎると過鎮静を引き起こすことがあり、無酸素性傷害や低体温中の代謝低下といった薬物毒性の危険性を高める恐れがある。神経テレメトリーでは患者が覚醒する可能性を示唆する脳波パターンに関する緊急異常値が報告されるため、医療提供者は鎮静剤の必要最小用量を患者に投与することができる。

患者の脳波がバーストサプレッション状態または抑制状態にある場合、検査技師・専門家は看護師に対し、患者は意識がないと考えられるため計画書に規定されている追加鎮静は必要ない旨を報告する。

患者が他の脳波パターンを呈している、あるいは筋弛緩薬を投与されている場合、検査技師・専門家は看護師に対し、患者の覚醒状態に関して提供すべきさらなる情報はないため計画書の規定通り鎮静剤を投与してよい旨を報告する。

 

ペントバルビタール昏睡患者のバーストサプレッション・モニタリング

  • 重度の外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)患者は、頭蓋内圧(intracranial pressure;ICP)亢進の危険がある。このため脳かん流が制限されて酸素の運搬が不十分となり、二次的脳損傷を引き起こすことがある(Marshall ら2010)。高用量のバルビツレート治療またはペントバルビタール昏睡は、他の処置で当該内圧を低下させることができなかった場合に効果があることが示されている(The Brain Trauma Foundation[脳外傷協会]2000)。
  • ペントバルビタール昏睡治療中に連続脳波/神経テレメトリーを行うと、バーストサプレッション率を医師が指定する範囲(多くは70%以上)に維持することができる。この範囲を外れる報告すべき値も医師が決定する。

 

緊急脳波結果

  • 「緊急(stat)」と表示された処置はすべて緊急検査として取り扱う。緊急検査は遅滞なく行い、検査が行われているあいだに、検査技師は所定の判読医に連絡する。医師の応答時間は10 分を目標とし、実際にかかった時間をすべて記録する。検査技師が医師に連絡した時間と医師がこれに応答した時間を記録する。医師に1 回目の電話/呼び出しをかけたら、その旨を患者の担当看護師に知らせる。1 回目の電話/呼び出しから10 分経過しても医師からの応答がない場合、2 度目の電話/呼び出しを行う。2 度目の電話/呼び出しにも応答がない場合、可能であれば医師の個人電話番号に電話をかけ、「緊急」の呼び出しであることを告げる。不可能であれば、ナースコールでかかりつけ医に連絡する。
  • 担当医が10 分以内に応答しなかった場合に連絡できる控えの医師を確保しておく必要がある。医師の応答時間は10 分を目標とし、実際にかかった時間をすべて記録する。判読医は、適切な主治医に連絡する。判読医が主治医である場合は、主治医がケアプランを管理する。

参考文献

Bernard SA, Gray TW, Buist MD, Jones BM, Silvester W, Gutteridge G, Smith K. Treatment of Comatose Survivors of Out-of-Hospital Cardiac Arrest with Induced Hypothermia. N Engl J Med 2002; 346:557—563.

The Brain Trauma Foundation. The American Association of Neurological Surgeons. The Joint Section on Neurotrauma and Critical Care. Indications for Intracranial Pressure Monitoring. J Neurotrauma 2000;17:479—491.

Claassen J, Bernardini GI, Kreiter KT, Bates, JE, Du YE, Copeland D, Connolly ES, Mayer SA. Effect of Cisternal and Ventricular Blood on Risk of Delayed Cerebral Ischemia after Subarachnoid Hemorrhage: The Fisher Scale Revisited. Stroke 2001; 32:2012— 2020.

Claassen, J, Mayer SA, Hirsch, LJ. Continuous EEG Monitoring in Patients with Subarachnoid Hemorrhage. J Clin Neurophysiol 2005; 22:92—98.

Herman S. Continuous EEG Monitoring for Ischemia: Raw and Quantitative EEG. Presented at Methodist Hospital of Indiana University Health; 2010; Indianapolis, Indiana.

Hirsch LJ. Urgent Continuous EEG (cEEG) Monitoring Leads to Changes in Treatment in Half of Cases. Epilepsy Curr 2010; 10:82— 85.

Hypothermia After Cardiac Arrest Study Group (HACASG). Mild Therapeutic Hypothermia to Improve the Neurologic Outcome after Cardiac Arrest [Erratum in N Engl J Med 2002; 346:1756]. N Engl J Med 2002; 346:549—556.

Jordan KG. Continuous EEG Monitoring in the Neuroscience Intensive Care Unit and Emergency Department. J Clin Neurophysiol 1999; 16:14—39.

Marshall GT, James RF, Landman MP, O’Neill PJ. Cotton, BA, Hansen EN, Morris JA, May AK. Pentobarbital Coma for Refractory Intra-Cranial Hypertension after Severe Traumatic Brain Injury: Mortality Predictions and One-Year Outcomes in 55 Patients. J Trauma 2010; 69:275—283.

Qureshi AI, Sung GY, Razumovsky AY, Lane K, Straw RN, Ulatowski JA. Early Identification of Patients at Risk of Symptomatic Vasospasm after Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage. Crit Care Med 2000; 28:984—990.

Vespa PM, Nuwer MR. Juhász C, Alexander M, Nenov V, Martin N, Becker DP. Early Detection of Vasospasm after Acute Subarachnoid Hemorrhage Using Continuous EEG ICU Monitoring. Electroencephalogr Clin Neurophys 1997; 103:607—615.

 

 

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カテゴリー: 「ベッドサイドでの脳波パターン:成人患者への持続脳波モニタリング」, 特集